斉藤和義×WOWOWオリジナルライブ スタジオライブ、オリジナルギター作り……歌うたいとしての名演
「2020年 斉藤和義の『今』を切り取るプログラム」と銘打たれたこのWOWOWオリジナルライブ番組『斉藤工務店』。2020年7月に収録された新曲披露を含むスタジオライブと、斉藤が近年ハマっており、コロナでの自粛期間中にも自宅で打ち込んでいたというオリジナルギター作りに迫るトークの両面で、斉藤和義というアーティストに迫る番組である。クールなライブでの表情と、打って変わって肩の力の抜けたトークでの雰囲気。観ていてなんだか彼の人柄に触れてほっこりするような、魅力に満ちた1時間半だった。
番組はスタジオライブからスタート。斉藤を含むバンドメンバーが円を描くように集まり、平里修一(Dr)のカウントからスタートした1曲目はテレビ朝日『じゅん散歩』のテーマソングとして2020年にリリースされた「純風」だ。レイドバックしたビートと刻まれるギターにのせて、斉藤が声を張り上げる。ギターソロを弾きながら小気味よく肩を揺らす姿に、久しぶりにバンドで音楽を鳴らす喜びが滲み出ている。続いて聞こえてきたのは「アレ」。真壁陽平のワウギターが心地よく鼓膜をくすぐり、皮肉まじりの鋭い歌詞が真っ直ぐに心に入ってくる。斉藤和義の曲はどれもそうなのだが、その辺でふと目に入ったようなことを歌いながら、どうしてか人間や世界の真実に触れたような気分になる。黒いコンバースでリズムを踏みながらリフをかき鳴らすせっちゃん、いつ見てもかっこいいぜ。
と思いきや、画面はいきなりエプロン姿の斉藤が「え~、どうも」と挨拶をする光景に切り替わる。「ここからは『斉藤工務店』ということでお届けしたいと思います」と両脇に座るふたりを紹介し始める。雑誌『ギター・マガジン・レイドバック』編集担当の坂口和樹氏とギター工房「TOYO GUITAR」主宰の豊崎貴志氏。斉藤が『ギターマガジン・レイドバック』で連載しているコーナー「ずっとギターが作りたかったんだぜ」でもチームを組んでいるこの3人で、斉藤のギター作りについて語るのである。
なのに……いや、やはりというべきか、ムードがきわめてユルい。雑誌の表紙を飾っている市川紗椰を見て「大好きです」と言ってみたり、その撮影の感想を坂口さんに尋ねてみたり、ふわっと会話が進んでいく。ノリとしては完全に、斉藤もたびたび出演している『タモリ倶楽部』のそれである。知らない人が見たら不安になるような空気だが、いうまでもなく、これこそ斉藤和義だ。演奏シーンのクールさと、このトークコーナーのユルさのコントラスト。他のミュージシャンには決して出せない味である。
斉藤が作ってきたギター、最初に紹介されたのはジェリー・ガルシア(Grateful Dead)の名機「ウルフ」を模したその名も「ウル風」である。驚くべきはそこに注がれた技術と熱意。自身で木を削り出し、ピックアップをはめる穴を開け……コツコツとギターを作り上げていく気が遠くなるような作業を、彼が心から楽しんでいることが伝わってくる(「ウル風」は2週間弱ぐらいで作り上げたという)。「曲をコツコツ作るのは大嫌いなんですけどね」と苦笑しつつ、ネックを留めるネジが「中折れ」してしまったことに引っ掛けた流れるような下ネタ、さすが斉藤和義である。
そんなトークから再び場面はスタジオライブに。ギターがファンキーなリズムを刻み出し、濃厚なセッションから「万事休す」を披露すると、油断しているところにまたトークが挟み込まれる。続いてはテレキャスター・シンライン風のカスタムモデル。ebayでボディを買って作ったものだという。ここでも、ネックのペグを挿す際に下穴を開けずにやったら木が割れてしまったという話題から息を吐くように下ネタをぶっ込んでくる斉藤。絶好調である。
絶好調なのはそれだけではない。ライブのMCやインタビューなどでも、これほど饒舌に楽しげに語る彼の姿は、ファンでもあまり見たことがないのではないか。話されている内容は超マニアックで、時折挿入されるテロップの注釈を踏まえても理解できない人のほうが多いのではないかと思うが、はっきり言って細かい内容はさほど重要ではない。斉藤が2020年、こんなにもいきいきとギター作りに勤しんでいたこと、ライブがない中でもこうやって彼がどっぷり音楽漬けだったことが伝わればそれで十分なのだ。