栗山夕璃が明かす、“蜂屋ななし”との別れを決意した理由　リスナーへの感謝の想いも

文・取材＝杉山仁

“蜂屋ななし”としての活動を振り返って

ーーそして、最後の曲は栗山夕璃名義で栗山さん自身が歌う「パープルハイプ」ですね。

栗山：この曲は、「ディジーディジー」を出した後ぐらいに僕のFANBOX（pixivFANBOX）にワンハーフぐらい出していたんです。それを、今年の2月に栗山夕璃として活動を再開するときに仕上げました。この曲も、僕にとっては蜂屋ななしでやり残したことを形にしていくと同時に、栗山夕璃として、自分の声でしか表現できないことをやろうと思って作った曲です。歌詞の面でも、ボカロでは表現しづらいことを表現しました。

ーー実際に自分の声で楽曲を届けてみての感想はどうでしたか？

栗山：やっぱりとても緊張しました（笑）。僕、覚えている最初の記憶が家族でカラオケに行って歌声をバカにされたことだったりするんです。そのとき、声を聴かれるのって恥ずかしいな、と思ったのを覚えていて。なので、「パープルハイプ」のときも、曲を作りながら自分の声に「うえーっ」となっていましたね。でも、実際に投稿してみると、皆さんの反応がよくて。とても嬉しかったです。

パープルハイプ／栗山夕璃

ーー今回の制作を通して、「蜂屋ななし」での活動に改めて向き合うことになったかと思います。蜂屋ななしでの活動は、自分にとってどんな期間だったと思いますか？

栗山：僕にとっては、「当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃないということを知れた」期間だったと思います。家庭で「他の家も一緒だ」と思っていたことや、「これはしょうがないことなんだ」と思っていたことが、実は「そうじゃない」と思えたというか。憎しみのどん底にいたところから、まだまだまともにはなれないですが、スタートラインに立つための更生する期間を、僕の音楽を聴いてくれた皆さんからもらったという感覚です。

ーー負の感情から生まれた蜂屋ななし名義での曲を聴いた人たちが、その曲を好きになってくれたり、「自分にもこういう感情になるときがある」と共感してくれたり、様々な形で楽曲を好きになってくれることは、栗山さんにとって大きな出来事だったんですね。

栗山：そうですね。悪意100％で作った曲でも、「この曲が好き」とか「美しい」と言ってくれることが、当時の僕にはとにかく衝撃的で。それが当時の僕の状況にもすごく重なった感覚があったんです。不完全な、出来損ないのような自分でも、好きになってくれる人がいるんだな、と。「もっとましな自分になれる、もっといい曲を作れる」というふうに、皆さんが僕を認めてくれることが、僕自身の力になっていきました。視聴者さんと会話をしながら進めているような感覚で、とても楽しい期間でしたね。蜂屋ななしをはじめた頃はあまりにも「目の前の環境を見たくない」という気持ちが強すぎて、「閃光花火」ぐらいまでは、1曲作るごとに毎回熱を出して病院に行っていたんです。ずっとその曲だけを考えてヘッドフォンをつけて、何も見ない、ご飯も忘れて曲を作る、という生活を続けていたので。

ーーなるほど。曲作りに没頭することが、現実から逃れる方法になっていたんですか。

栗山：はい。でも、「プラシーボ」を出した頃に一度体を壊してしまって、「これじゃダメだ。また病院に戻ってしまう」と思うようになって。それでも活動していく中で、徐々に考え方も変わってきて、（ビジュアル面を担当するイラストレーターの）はるもつさん、sakiyamaさんを筆頭に協力してくれる方たちも増えて、歌詞も直接的に書けるようになっていきました。

ーー活動初期の蜂屋ななしさんは、今の栗山さんのような状況は想像していなかったかもしれませんね。

栗山：そもそも音楽活動をすること自体がありえなかったかもしれないです（笑）。でも、だからこそ当時の蜂屋ななしに向けた曲というか……あいつが報われるような曲をガンガン作っていきたいと思います。今後に向けて今も色々準備をしていますし、ライブもすごくしたいですね。サポートしてくれる方々もいて、制作の時間もより取れますし。色々相談もさせてもらっていて、とにかく今はすごく楽しさを感じています。

■リリース情報
蜂屋ななし（栗山夕璃）
『Anaphylaxie Bee』
2021年10月13日（水）発売
価格：￥3,000（税込）
品番:DUED-1288

＜DISC1＞
01.アナフィラキシー
02.綴目
03.フーリッシュフール
04.縫口
05.ノイローゼ
06.オペ
07.バイタルサイン
08.WHITE NIGHT PARADE
09.シャボン
10.プラシーボ
11.ジターバグ
12.ライムライト
13.HAPPY SHAPE
14.生命不詳
15.ディジーディジー
16.8月23日
17.ハロ
18.針を落とす
19.パープルハイプ