中村佳穂、“げんざいち”という途中の無双 初の全国ツアーファイナル福岡公演レポ

中村佳穂、初全国ツアーファイナルレポ

 開演時刻の18時。暗転した舞台上のカーテン幕をスクリーンとして映し出されたメッセージに、思わず頬が緩んだ。

「Hi! こんばんは~。わたし!わたしです~」

 それは、いかにも中村佳穂らしい挨拶から始まるオーディエンスへの手描きの絵手紙。この時世に、全国を旅すること、舞台に上がることに迷い、歌うことが誰かを傷つけているのではないか? と思い煩いながら、それでも「歌は見えない宝石のようなもの。歌をとおして宝石をシェアする。そんなつもりで今夜をすごそう」と開催に踏み切った。その逡巡と、舞台へ向かう覚悟とが、真摯に、かつ優しいユーモアとともに伝わるプロローグだった。

写真=勝村祐紀(勝村写真事務所)

 舞台には、雪洞型の灯りとRolandのキーボード。彼女はひとり、逸る心を映すようにハキハキと愛器に歩み寄った。客席に一礼し笑みをこぼしながら鍵盤と向き合う。ポーン、ポーンと音色を確かめ響きを味わって、声を発する。その最初の一語が“ば”なのか、“わ”なのか、瞬時に判断できないほど、たった一声で魂を掴まれ、全身が彼女の【うた】に包まれてしまう。瞬間瞬間の心をリズムに乗せメロディにしながら、「いちばん新しい歌を」とささやいて紡がれたのは、新曲。スタッカートとレガート、フラットとハイトーンを巧みに織り交ぜながら日々の陰りと彩りを謳い、歌う。新曲といってもそれが新曲なのかアドリブなのかわからないくらい、その抑揚の効いた【うた】は初めての全国ツアー『うたのげんざいち 2021』最終日、Zepp Fukuoka公演のオープニングという場所に、自然に居て、かつ必然的に在った。続けて「いちばん古い歌を」と、高鳴っていく鼓動のようなピアノの旋律、飛び跳ね回るリズムに乗せた「口うつしロマンス」。まるで身体が発するリズムを歌にしているようだ。

 徐に林田順平のチェロを迎えた次曲も新曲。冒頭からの印象的なサビメロとリリックが残る。間奏明けには伊吹文裕(Dr)によるビートが加わって昂りは最高潮に、そして激しい慟哭を思わせるラストへ。次いで、流麗なラップと前衛的なスネアとチェロのビートを導入に「アイアム主人公」が連なる。途中、越智俊介のベースが加わり、林田とギターの西田修大が舞台上の観客となって、すでに自由度もマックス。さらに「get back」では、鍵盤を離れた中村が、ハンドマイクで舞踏役者のように舞台上を彷徨いながら、ある夜の情景を描き出していく。ベルベットの如く上質で濃密な空間、野放図でありながら言葉にならない美しさに見惚れてしまう。吐息にも似た中村の「うっとりしちゃうね」という言葉にも頷くばかり。

 ソロ最後のパートは、名曲「永い言い訳」。丁寧に、噛みしめるように歌い、生きづらさと生きる歓びとをつづれ織りにして讃える。まっすぐでクラシカルなボーカリゼーションがみるみるうちにオーディエンスを飲み込み、神々しいまでの求心力を発している。和音を響かせながら「第2部」と呟くと、そのまま未知の新曲へと導く。希求のような荘厳なメロディ、祈りのようなリリックと歌が熱を帯びていき、姿の見えないバンドの演奏が加わって、曲そのものが生き物のようにうねり蠢き始める。曲後半、舞台を前後の中央で仕切っていたパネルが取り払われ幕が開き、いよいよバンドが全貌を現した。同時に転調、展開も混沌を極め、中村のアジテートなラップが文字通り炸裂する。着席しているオーディエンスからもうずうずと抑えがたい昂揚が伝わってきて、実にエキサイティング。そしてこの終盤、中村とバンドが共に限界知らずの本領を発揮。トリッキーなギターリフとエモーショナルなチェロが冴えた「LINDY」を筆頭に、低音域の広さによる重厚さと、アグレッシブ&ラディカルな獰猛さとを備えた艶かしいグルーヴィなサウンドで、歌を支え鼓舞し昇りつめていく。「自分で創ったけど自分でも時々救われる曲」と大きく息を吸って臨んだ「アイミル」では、緩急自在のグルーヴの昂揚感が会場中を満たす。オーディエンスのハンズクラップとも相まって幸福感も十二分だ。本編ラストは再びほぼアンプラグドでのセッション。最低限の構成とメロディだけをもって、最後まで中村佳穂の“好き!”を集めたやり方での大団円だった。

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