aikoの楽曲はドラマやCMタイアップとなぜハマる? 確固たるスタイルから生み出される無限の共感力

 今年7月でデビュー23周年を迎えたaikoは、これまで様々なタイアップ曲を世に送り出してきた。

 ドラマ・アニメ・映画関連では「おやすみなさい」(ドラマ『さよなら、小津先生』主題歌)、「どろぼう」(TVアニメ『まっすぐにいこう。』オープニングテーマ)、「キラキラ」(ドラマ『がんばっていきまっしょい』主題歌)、「スター」(映画『あらしのよるに』主題歌)、「横顔」(ドラマ『ホタルノヒカリ』主題歌)、「KissHug」(映画『花より男子F』挿入歌)、「戻れない明日」(ドラマ『曲げられない女』主題歌)、「向かいあわせ」(映画『ダーリンは外国人』主題歌)、「ホーム」(映画『阪急電車 片道15分の奇跡』主題歌)、「あたしの向こう」(ドラマ『素敵な選TAXI』主題歌)、「プラマイ」(ドラマ『仮カレ▽(ハート)』主題歌)、「合図」(映画『先輩と彼女』主題歌)、「もっと」(ドラマ『ダメな私に恋してください』主題歌)、「恋をしたのは」(アニメーション映画『映画 聲の形』主題歌)など。

 CMソングとしては「ナキ・ムシ」(ロッテ「シナモンガム」)、「桜の時」「恋のスーパーボール」(共にカルピス「カルピスウォーター」)、「ボーイフレンド」「milk」(共にブリヂストン・アルベルト)、「あなたと握手」(森永乳業「ラクトフェリンヨーグルト」)、「4月の雨」(シードワンデーピュアうるおいプラス)、「君の隣」(ロッテ「ガーナミルクチョコレート」)など、枚挙に暇がない。

 こうして振り返りながら感じるのは、どのタイアップにおいても楽曲と映像がセットになって鮮明に蘇ってくるということだ。それはタイアップとしてあるべき形であるし、最高のコラボレーションだと言えるだろう。だが、aikoはタイアップ曲であっても、別段作り方を変えることは基本的にはない。映画やドラマのストーリーを受け取った上で、そこにマッチするようにワードを選び、曲調を考えるアーティストは多いはず。だが、aikoはたとえ書き下ろし曲であったとしても基本的には台本や脚本などに目を通すことなく曲を生み出す。CM曲であっても商品を強く意識しながら書くことがないのは同様だ(唯一とも言える例外として、ドラマのエッセンスがナチュラルに盛り込まれた「あたしの向こう」が存在することも念のため明記しておく)。

 長いキャリアの中で築かれたaiko楽曲への信頼感ゆえ、タイアップ相手がaikoに対してすべてをおまかせすることが多いのも、そうした形になっているひとつの理由であるはずだ。だがそれ以上に大きな理由となっているのは、aiko自身がタイアップのことを意識しすぎると曲が思うように書けなくなってしまうから。だからこそ彼女はタイアップ曲であっても、いつもと変わらず自由に曲作りをするのである。相手のことを思いやり、受けた期待に対して過剰に応えようとしてしまう生粋のサービス精神を持つがゆえに生まれた、ある意味で逆説的なアプローチとも言えるが、これまでのタイアップ曲のハマり具合を考えるに、これはもはやaikoならではのひとつの確固たるスタイルとなっていることは間違いない。

 では、なぜaikoの曲はどんなタイアップであっても、絶妙なマッチングを見せるのか。それは、aikoが常に日常のあらゆるシチュエーションの中で生まれる様々な感情を丁寧に掬い取りながら、自らの経験というフィルターを通して楽曲へ落とし込んでいるからに他ならない。aikoならではの独自の視点で描かれる世界は、日常の出来事に対して新鮮な側面から光を当てていることが多いが、その根底に潜んでいるのはあくまでも普遍的な感情ばかりだ。だから聴き手は彼女の楽曲を聴いていると自分の境遇に当てはまりすぎて、「aikoはなんで今の私の気持ちを知っているんだろう⁉」と驚きの感覚を抱くことになる。どの楽曲においても、聴き手の人生にフィットする場面が必ず存在するとも言える。そんな無限の共感力を持った楽曲を生み出しているからこそ、タイアップとしてどんなストーリーの中に入ったとしても、どんな商品と対峙したとしても自然と溶け合い、寄り添い合うことができるのではないだろうか。

aiko『食べた愛/あたしたち』通常盤

 9月29日にリリースされたニューシングル『食べた愛/あたしたち』もまた、どちらの表題曲にもタイアップがついている。「食べた愛」はカルビー ポテトチップスCMソングだ。かねてからポテトチップス好きを公言してきたaikoは、そのCMに起用される喜びと今の世の中の状況を意識して、とにかく楽しい楽曲を書こうと思ったのだという。タイトルの“食べた”というフレーズこそ商品にリンクしている部分ではあるが、当然のことながら歌詞にそれを具体的に連想させるようなワードが出てくることはなく、片想いをしているときのワクワクとした感情を瑞々しく描き出した1曲となっている。そのハマりっぷりは、ぜひとも実際のCMを見てチェックしてみて欲しい。ちなみに同曲が使用されているカルビー ポテトチップス うすしお味「畑から、愛を込めて。」編のCMではaikoがカメオ出演も果たした。「アンドロメダ」が起用された2003年のグリコ乳業「カフェオーレ」、「キスする前に」が起用された2006年のNTT DoCoMo「aiko-だから私はドコモです」篇に続く、約15年ぶり3度目のCM出演となる。今回のCMでaikoは、「食べた愛」とともに、満面の笑顔でポテトチップスの美味しさを届けてくれている点にも注目だ。

aiko-『食べた愛』music video
ポテトチップス 「畑から、愛を込めて。」篇

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