2nd Full Album『Tasty』インタビュー
kiki vivi lily、“味覚”で表現した手の届く範囲のファンタジー 生活スタイルの変化が音楽に与えた影響
スイートな歌声のシンガーソングライター・kiki vivi lily(キキヴィヴィリリー)が、フルアルバムとしては前作『vivid』以来、実に2年4カ月ぶりとなる通算2枚目のアルバム『Tasty』をリリースした。荒田洸(WONK)とMELRAWが前作同様にサウンドプロデューサーを務め、トラックメイカーのShin SakiuraやSweet William、ラッパーのIttoが参加した本作は、タイトルにある通り、生活の中で味わう様々な味覚(テイスティ)がテーマとなっている。甘い、辛い、苦い、酸っぱい……。「生活の中で味わう様々な味覚を音楽で表現した」というアルバムを裏テーマである「1日の流れ」に沿って1曲ずつ解説してもらった。(永堀アツオ)
日常の風景にフォーカスを当てた『Tasty』
ーー昨年12月にEPをリリースしましたが、フルアルバムとしては2年4カ月ぶりとなります。どんな作品にしたいと考えてましたか。
kiki vivi lily:もともとはEPを作っていたんですけど、どうしてもフルアルバムが作りたくて、無理を言って、フルアルバムを作らせてもらったんですね。私はやっぱりアルバムを通して聴くのが好きなんですよ。最近で言うとダニエル・シーザーとか、憧れの人でいうと荒井(松任谷)由実さんとか。大好きなアーティストはアルバムを通しで聴くし、そこにストーリーがあるとすごく惹き込まれるので、自分もそういうものを作りたいなというのが常にあって。前作『Good Luck Charm』はEPで、やっぱりストーリーを伝えるのに物足りなさがあったので、急遽、フルアルバムにしたんです。
ーー今回はどんなストーリーをイメージしてましたか。
kiki vivi lily:タイトル通りなんですけど、今回のテーマを「Tasty」にしていて。私はいろんなタイプの曲を作るのが好きだし、いろんなサウンド感のものを詰め込んだアルバムにしたいというのがあって。甘い曲もあれば、ちょっとヒップホップ寄りのものもあったり、すごくテクニカルなものがあったりする。味覚にも辛いとか、甘いとか、苦いとかあるので、それに結びつけて作れたらいいなと思ってました。
ーーちょっと話がずれますが、好きな食べ物も聞いていいですか。
kiki vivi lily:フルーツが好きですね。最近はキウイが好きで、毎日、食べてます(笑)。甘いものを人間が欲した時って、実は砂糖が入った甘いものではなく、ビタミンCでも代用できるって聞いて。食後に甘いものを食べたくなったとしても、ビタミンCで脳が満足するっていうのを知ってから食べ始めたんですけど、全く間食しなくて済むようになりましたね。
ーーそれはいいことを聞きました(笑)。音楽と食の関係はどう考えてますか。
kiki vivi lily:私の場合は、衣食住の場面で絶対に必要ですね。私は家にいることが多いので、常に音楽をかけているか、映画やドラマを流していて。一人で無音の中で生活しているわけではないので、そういう環境も関係あるのかなって思いますね。料理する時や皿洗いをする時は絶対に音楽を聴くし。勉強するときはゆったりしたものを聴いて、掃除するときは元気なもの、運動するときはめっちゃアッパーなものを聴いてます。朝昼晩、その状況によって全然違う音楽を聴いてますね。
ーー本作は「味覚」というテーマですけど、1日の流れも感じる構成になってますよね。
kiki vivi lily:そうですね。アルバムを通して1日の流れにしたのは、割と最終的な段階で決めました。最初から1日の流れにしたわけではなくて。出来上がった時に並べてみたら、そういうふうに聴こえたんですよね。日常というものにフォーカスして曲を作っていたのでそうなったのかもしれないですけど。
ーー1日の始まりを告げる「Intro : wip」の成り立ちから聞いていいですか。
kiki vivi lily:これは最後にできた曲です。アルバムが出来上がった段階で、各曲のちょっとしたフレーズを作っている風景の音にしました。試行錯誤する中で、楽しくやったらいいじゃんってなって、自然発生的にできた感じですね。
ーープロデュースは1stフルアルバムの『vivid』から、ずっと一緒にやっている荒田洸(WONK)さんです。
kiki vivi lily:なんというか、地続きな感じで一緒に作ってるんですよ。「このアルバムはこういう感じにしようぜ」とか、「さぁ、制作を始めよう」みたいな感じではなくて。私が曲ができたらデモを持っていって、そのデモを生かせるアレンジを都度考えていく。ライフスタイルの一環として曲を作り続けてるので、その続きでナチュラルに始まったという感じでしたね。
ーー続く「Lazy」は?
kiki vivi lily:2016年ごろに作ったんですけど、もともとはゴスペルっぽい、音楽賛歌みたいなものを作りたいなと思って、そういうフレーズをピアノで弾き始めたことがきっかけでしたね。この曲は初めてバンドでレコーディングして。今までは1個1個のフレーズを画面上で組み立てていく作業が多かったんですけど、この曲は本当に“せーの”でやった。そういうグルーヴ感は今までにない感じになったかなと思いますし、めちゃくちゃ楽しかったです。
ーー歌詞のテーマは決めていましたか?
kiki vivi lily:曲と歌詞は同時発生的に一緒に作るので、最初の歌い出しから作っていって。その時の感覚で出てきたものを書いているっていう感じなので、「こういう歌詞を書こう」っていうわけではなかったと思います。ただ、サウンドは明るい感じなんですけど、歌詞には一抹の切なさがあるなってことに気づいてからは、そこを伸ばしていくように、言葉を補完して作っていきました。
ーーこの曲は、夏が終わって秋の冷たい風が吹き始めてますよね。
kiki vivi lily:恋が寒さを感じ始めたイメージですね。ずっと一緒にいたいけど、ずっと一緒にはいられない。だから、夢の中に逃避しようといった恋模様を描きました。