アリーヤ、サブスク解禁で再考する現代アーティストとの結び付き ジェネイ・アイコ、ティナーシェらへ与えた影響
アリーヤのアルバム2作品がついにサブスク解禁された。その報せの重要性に最初はさほど気がつかなかった。というのも筆者の場合、彼女の作品はオリジナルアルバム3枚はもちろん、コンピレーション盤やサントラ提供曲などCD・レコードから取り込んで、常に手元で聴ける状態にあったからだ。飛行機事故による不慮の逝去から20年経った今でも日常的に聴き続けているし、初めて聴いたときの感動や当時の思い出はその都度あざやかにフラッシュバックする。同じような思いを抱いているリスナーも相当に多いはず。アリーヤとは、それほどの存在感を誇ったR&B界のミューズだった。
今回解禁された『One In A Million』(1996年)と『Aaliyah』(2001年)の2作品は、原盤権を保持していた<Blackground Records>(現<Blackground Records 2.0>)の社長であり、アリーヤの叔父にあたるバリー・ハンカーソンと、アリーヤの母と兄による遺族会の間で意見の相違が続いたことが原因で、長い間ストリーミングで公開されていなかった(原盤権を<Jive Records>が保持していたデビュー作『Age Ain’t Nothing But A Number』はすでに公開済み)。
昨年には一度両者の歩み寄りが報じられていたが、結果<Blackground Records 2.0>は遺族会の同意なしに<EMPIRE>と新たな契約を結び、半ば強引に解禁。その経緯を辿ると複雑な心境ではあるが、ストリーミング再生ができないことでアリーヤの音楽に触れられる機会が減ってしまうのはあまりに惜しい。本項ではアリーヤの音楽そのものにフォーカスして、解禁になった2作品が現在のアーティストたちへ与えた影響を再考していく。
シーンの流れを変えた革新作『One In A Million』
アリーヤの20回忌に先駆けて8月20日にストリーミングが解禁された『One In A Million』。200万枚以上を売り上げた初作で総指揮をとったR・ケリーとの極秘結婚など、スキャンダルを取り沙汰された後に発表された再出発作となる2ndアルバムだ。メインプロデューサーを務めたのは、当時まだ無名だったティンバランドとミッシー・エリオット。ビートボックスを交えた変則的ビートが生む摩訶不思議なチキチキサウンドは、それまでの彼女のイメージをガラリと変えただけでなく、R&B/ヒップホップシーンの流れを大きく動かしたエポックメイキングな作品となった。
すでにデビュー作の時点で大人びていたアリーヤの歌声は、数段クールさを増し、17歳とは到底思えない貫禄を漂わす。先行シングルとしてリリースされた「If Your Girl Only Knew」や、バラードでありながらもバウンシーなタイトル曲など、メアリー・J. ブライジとパフ・ダディが口火を切ったヒップホップソウルとはまた違う形で、ストリート産のR&Bを打ち出した。
またロドニー・ジャーキンス、ジャーメイン・デュプリ、ケイ・ジーといった人気プロデューサー陣が脇を固め、前作に引き続きThe Isley Brothersのカバー(「Choosey Lover」)が収められるなど、前衛的な作風とオールドスクールマナーが両立。ダイアン・ウォーレンとダリル・シモンズの黄金コンビによる「The One I Gave My Heart To」も実に90年代的なポップバラードで、各方面から彼女の才能が引き出された一枚だ。
『One In A Million』から辿る関連作
前述のメアリーに代表されるような情熱的な歌唱法に比べて、アリーヤのボーカルスタイルはウィスパーとはいかないまでも控えめ。アンビエントやトラップミュージックとの接近が顕著な2010年以降のR&Bでは、その歌い込みすぎないスタイルが特に相性が良く好まれる。癒しと静かな狂気を同居させるジェネイ・アイコはまさにアリーヤの直系と言えるし、「P*$$Y FAIRY (OTW)」のMVで見せる男性パートナーとのダンスシーンは「One In A Million」へのオマージュだろう。ティンバランド(以下ティム)のレーベルと契約していたティンクは、アリーヤのサンプリングを施した「Million」を2015年に発表。ティム制作のアルバムはお蔵入りしたものの、今年には<EMPIRE>傘下から最新作『Heat Of The Moment』をリリースするなど精力的に活動中。一方のティムは、かつて<ROC NATION>に所属していたNY出身のシンガー、ジャスティン・スカイの最新作『Space And Time』で総指揮を担当し、「If Your Girl Only Knew」を引用した「Innocent」などアリーヤを思わせる楽曲を多数提供している。