adieu、初ワンマン『adieu First Live 2021 -à plus- 』レポ 新たな一歩への充実感溢れるステージに
アンコールはスピッツのカバー「楓」からスタート。純粋さをまとった歌声と楽曲の世界観が驚くほどマッチし、シンガーとしての力量の高さを改めて見せつける。
「今日ここに立って歌いながら、みなさんに自分の歌を届けられていることの幸せをずっとかみしめていました。私はもともと音楽が心から大好き。凹んだ心に空気を入れてくれるのが音楽で、ご飯とか栄養と同じもの。adieuの音楽を聴いてくださっている方に、そういうふうに音楽を届けられたらいいなと思いましたし、これからもそうありたい」
そう前置きし、最後の曲に選んだのは「よるのあと」。今や彼女の代名詞ともなった曲は、歌いだしと同時に、夜の闇のように穏やかに観客を包み込んでいく。〈あなたが嘘をつかなくても生きていけますようにと 何回も何千回も願っている〉というフレーズはどれほどの人を救っただろう。ステージの上から語りかけるように歌う声には、ライブの締めくくりにふさわしい慈愛が満ちていた。
最後に「まだまだ自信はないけれど、私なりの美しいものを歌にのせて届けていきたいです。ありがとうございました! また会いましょう。みんな健やかに! 幸せに! アデュー!」と手を振り去っていくと、無人となったステージではバンドメンバーやスタッフクレジットの映像がエンドロールのように流れ、いつまでも余韻を伝えていた。
ライブ中、何度も「幸せ」と口にし、初のワンマンへの喜びを語っていたadieu。謎めいた存在としてシーンに登場したデビュー時、そして上白石萌歌の名を明かし、ひとりのアーティストとして音楽と向き合うことを選んだ時。いずれの時も、こうして観客の前に立ち、歌う日を夢見てきたはずだ。この日、その願いはようやく叶った。新たな一歩を踏み出した充実感を、ステージを去る間際に見せた晴れやかな表情が物語っていた。