イングヴェイ・マルムスティーン、『パラベラム』で語る表現者としてのメッセージ「自分の中のアートを吐き出さないといけない」
メタルシーンを代表するギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンが『ブルー・ライトニング』以来約2年半ぶりとなるニューアルバム『パラベラム』を7月23日にリリースした。前作は自身のルーツであるブルースロックを体現したアルバムだったが、今作では、ネオクラシカルメタルに立ち返った原点回帰ともいえる作品に仕上がっている。その最新作について、イングヴェイが込めた表現者としての矜持を大いに語ってもらった。(編集部)
“平和を求めるのなら戦いに備えよ”を掲げたアルバム
――前作『Blue Lightning』(2019年)はご自身のルーツのひとつであるブルースロックを下地にしたオリジナル曲のほかに、カバー曲も豊富に含まれた内容でした。一方、今作『Parabellum』は『Blue Lightning』からの反動と思えるほど、クラシカルな側面が強まっています。本作にはどのような過程を経て到達したのですか?
イングヴェイ・マルムスティーン(以下、イングヴェイ):『Blue Lightning』はほとんど遊びでやったようなもので、「ブルースアルバムを作らないか?」って以前からみんなに言われていたので、そろそろやってもいいかなと思ったんだ。だから、あのアルバムで別の方向に進もうなんて思っていなかったんだよ。
今回のアルバムを作り始めたとき、いくつかのことが起こった。まず、方向性を特に定めなかったということ。だから「インストゥルメンタルを、ネオクラシカルをもっとやらなくちゃ!」なんて思わなかった。これこそまさにイングヴェイ・マルムスティーンであり、俺がやっていることなんだ。とても自然なことだったんだよ。コロナのことがあったから、俺には時間が山ほどあった(笑)。だから、80~90曲書いた中から10曲選んで、曲の細かいところにまでこだわった。ハーモニーを加えたり、思いついた自然なアイデアを洗練させていったんだな。80年代だったら「MTV用にこういう曲を書いてくれ」とか「ラジオ用にこういう曲を書いてくれ」とか、みんな俺を特定の方向に突き動かそうとしたかもしれない。でも、スウェーデンに住んでいた17歳の頃の俺は何にも気にしちゃいなかったし、ただ俺の大好きな音楽を作っていただけ。そしてなんと、俺はまたその頃とまったく同じ状態に戻ったんだよ!
ーー曲をたくさん制作する時間があったこと以外で、コロナが本作の制作に与えた影響というのはあったのでしょうか?
イングヴェイ:もちろん、コロナはみんなにとって悪いことだ。あんなこと、起こらなければ良かったと本当に思うよ。俺は今回起こった本当に悲惨なことを受けて、とても注意深くこの音楽を作り上げていった。しかし、長い間曲と付き合っていると考えすぎてしまい、何度もやり直しをしてドツボにハマってしまう。だから、なるべく新鮮なものを優先すべきだし、特にソロに関してはすべてワンテイク以上はやらない。それが俺のやり方なんだ。
俺はすべての楽器を弾き、歌ってもいるので、そっちに関してはもっと時間をかけている。ちゃんと満足するまで、すべてのパフォーマンスをきっちり洗練させているんだ。つまり、レコーディングしたものをCDか何かに入れて、翌日フェラーリを乗り回しているときにそれを聴いて「ここにはあれが必要だな」「ここはもうちょっとコンプレッションをかけないと」といった細かいところを精査する。それからスタジオに戻って、エンジニアと一緒に手を加えていくんだよ。例えば今作の「Eternal Bliss」には最初、コーラスがなかったけど、あとからコーラスパートを作ってみたら素晴らしかったので、それを曲の頭にも持ってこようと思ったんだ。時間の制限がなかったぶん、そういったことができる本当に素晴らしいチャンスだったからね。だから、俺が今まで作ってきたアルバムの中でもスペシャルな1枚になることは間違いないよ。
ーー先ほど「すべての楽器を弾き、歌ってもいる」とおっしゃいましたが、『Spellbound』(2012年)以降のアルバムではほぼすべての楽器とボーカルをご自身で担当しています。このスタイルに移行した理由は?
イングヴェイ:これは俺にとって新しいことじゃない。単に、以前のやり方に戻っただけなんだ。すごく小さかった頃の俺は、ある意味とてもラッキーだった。祖父はドラマーだったし、叔父は1950年代にレコーディングスタジオを建てていて、ストックホルムの中心にあったそのビルを祖母が所有していた。「そこを使っていいよ」と言われていたので、そこで思いっきり大きな音を出せたんだ。ちなみに兄もドラマーだったので、俺もギターを始めたのと同じ年にドラムを始めた。だから、そのスタジオでドラムを録り、ベースを録り、ギターを録ったりしたよ。その後、PowerhouseやRising Forceといったバンドを組んだけど、ほかのメンバーは仕事をしたり学校に通ったりしていた。でも、俺はそういったことはやらなかったから、すべての楽器を自分でレコーディングしていたし、歌もすべて自分で歌っていたし、曲も書いていたんだ。だから、別に新しいことではないんだよ。
それと、もうひとつ覚えておかないといけない重要なことは、1984年のアルバム『Rising Force』から始まったのは俺のソロキャリアだということ。あれはバンドじゃなかったし、バンドであったことなど一度もない。当時雇われていた人の多くは、自分がとても重要な存在だと見られたがったけど、実際には彼らはそういう存在ではなかった。俺は毎週彼らに給料を払って「これを弾いてくれ」と言い、俺が求めていたことを相手がやらなかったらまた別に雇われた人間がやってきて、キーボードなりベースなりボーカルなり、そのとき俺が求めていたことをやっていたわけだ。
ーー今作ではキーボードを使わずに、ギターシンセサイザーを使ったそうですね。
イングヴェイ:そうなんだ。超クレイジーだったよ! 俺はローランド(※ギターシンセサイザーのメーカー)が大好きなんだ。弦からいろんなシグナルを拾うピックアップみたいなものがあって、そこで拾ったものがモーグ等のシンセサイザーサウンドになる。さらにサンプラーを使うことで、チェンバロやバイオリン、クワイア、グレゴリオ聖歌といったシンフォニックサウンドを奏でることもできるんだ。つまり、ピアノアルペジオやバイオリンアルペジオをギターで弾いたわけだよ。クレイジーだろ(笑)? すごくいい音だったし、楽しかったよ。
ーーここからはアルバムの内容について、じっくり聞かせてください。『Parabellum』というタイトルは収録曲「(Si Vis Pacem) Parabellum」からの引用かと想像します。このタイトルを選んだ理由は?イングヴェイ:これはラテン語でね。ローマ時代のフレーズで、「Si Vis Pacem Parabellum」とは「平和を求めるのなら、戦いの備えをしろ」という意味なんだよ。ジュリアス・シーザー(ガイウス・ユリウス・カエサル)とか古代ローマの百人隊長とかが言ったことだと思うけど、俺はこういうのが好きなんだ。このアルバムタイトルは最後の最後になって決めた。ほかにもアイデアもいろいろあったけど、息子が「『Parabellum』、これだよ!」と言ったので「わかった、じゃあそうしよう」ということになったんだ(笑)。
ーーそうだったんですね(笑)。リードトラック「Wolves At The Door」はパガニーニの旋律をフィーチャーした、これぞイングヴェイといえるネオクラシカル調の王道ハードロックです。この曲をアルバムのオープニングトラック、およびリードトラックに選んだ理由は?
イングヴェイ:その質問に答えるのはとっても難しいな。さっきも言ったように、90曲ほどから10曲を選んだから、アルバムには弱い曲なんか1曲もない。問題は新しいものを紹介するとき……俺は長年やってきたわけだから、そんなに新しいってわけでもないけど……有名な俳優が新しい映画を作ったけど、みんなその俳優のことは知っているのに映画のことは知らない、みたいな感じだな。だから、今回も「『Relentless Fury』みたいにすごくキャッチーな曲にしようか、もしくはインストゥルメンタルにしようか」なんて考えたけど、最終的に「この曲(『Wolves At The Door』)にはインストゥルメンタルパッセージがあるし、ボーカルも入っているし、素晴らしいコーラスもある。みんなが何を言うかなんて考えるのはやめて、これにしよう!」と思ったんだ。オープニングとして打って付けだからね。
俺はいつも、みんなが徹底して聴いていないんじゃないかと懸念している。これはアルバムなんだから、最初から最後まで聴かれないといけないし、その中から1曲だけを選ぶのは本当に難しい。今はこういうやり方で話題性を狙うんだが、肝心なのはすべてを聴くことなんだ。このアルバムにはバラードも入っているけど、これは俺が書いた中で最高のバラードだ。でも、これをオープニングに持ってくることは……できると思う(笑)? だから、アルバムの曲順を決めるのは本当に厄介なんだ。例えば、「(Si Vis Pacem)Parabellum」のあとにはとても繊細な「Eternal Bliss」が来る。その後は「Toccata」が来るけど、これまた強烈だ。完成した今はハッピーだよ。結果には満足しているし、実際このアルバムにはバカみたいに強烈な曲が満載だからな。
ーー今回のアルバムには歌モノ楽曲が4曲収録されています。歌詞にはそれぞれどのような思いが込められているのですか?
イングヴェイ:「Wolves At The Door」に関しては……オオカミが自分の家の玄関先で吠えているところを想像してごらんよ……いやいや、冗談だよ(笑)。あれは危険のメタファーさ。俺は自分の曲に政治的な要素は絶対に入れたくないけど、リスナーは好きに解釈してくれていいんだよ。今、アメリカでは暴力とかちょっとした問題が起こっている。そのことについてだと解釈することもできるけど、必ずしもそれだけじゃない。「(Fight) The Good Fight」も剣と盾で戦うことについて書いたわけじゃない。俺はそんなことはしない。でも、ああいうものを書いたんだ。すべてがとても象徴的なんだよ。「Relentless Fury」は誰からも罵倒されまいということについてなので、俺の性格に関することだな。そして、「Eternal Bliss」も俺についての曲だ。俺はとても恵まれた人生を送ってきたと思っている。とても感謝しているよ。40年近く経った今も、俺は心からの音楽を作っていて、それが評価されている。とても美しい妻や息子にも恵まれ、家もある。これまでの俺の人生で起こったことについて、俺はとても感謝している。そのことについての曲なので、これには特定の意味が込められているんだ。
ーー今挙げた「Eternal Bliss」はオープニングのボーカルオーケストレーション含め、全体を通して美しさや儚さの強さが伝わるバラードです。こういったスローナンバーを歌う際、演奏する際に大切にしているポイントはどういったところでしょう?
イングヴェイ:特に考えてはいないな。ヘッドホンをつけてボーカルを録るときは、音楽とメロディと歌詞がどこかへいざなってくれる。演じることとは違うし、俺はただ俺であろうとしているだけだから、できるだけ正直かつピュアなパフォーマンスを心がけている。今回のアルバムは特にそうだった。17歳の頃の俺のようだったからだ。あの頃の俺はみんなに「おまえ、ヘヴィメタルやっているのか。そんなもの誰が買うもんか!」と言われていた。子供の頃にスウェーデンで俺が耳にしたのはそれだけだった。彼らは正しかったのかもしれない(笑)。でも、俺は「いや、俺はこれをやらないといけないんだ」と言った。俺の中にある情熱を吐き出さないといけなかったから。俺は単なるセックス&ドラッグのロックンローラーではなく、自分のアートに対して情熱を注いでいる。自分が感じていたとおりのことができる、それが究極の報いなんだ。