『天才てれびくん』シリーズが歴代てれび戦士たちと作り上げてきた名曲を考察 子どもの目線で歌われる時代性や未来がテーマに

いきものがかり・水野良樹楽曲にある大切なメッセージ

 

いきものがかり・水野良樹が作詞作曲を担当した2017年度の『天才てれびくんYOU』エンディングテーマ「たてっ!よこっ!ななめっ!みんなのちから!」も傑作である。パワフルな歌声とサウンドによる“ど直球ソング”に思えるが、〈そーれ どまんなか いーや すみっこも ぜんぶのきもちを 書きあげろ!〉という序盤の歌詞が表すように、誰一人として置いてけぼりにしてはいけないことを訴えかけている。そもそも「たてっ!よこっ!ななめっ!みんなのちから!」というタイトルも、世の中には色々な思考があることと想起させる。多様性への理解を深める必要があるなかで、同曲はそういった考え方の重要性を象徴している。〈泣きたいひと 怒っているひと どっちもたくさんいるってさ〉という一節も実に素晴らしい。そうして全ての在り方をきちんとと見つめながら、〈みんなで あつまりゃ むげんだい〉と締めくくる。これを子どもたちが歌っているからこそ、より意味が深まっていく。いつまでも聴き継がれるべき名曲だ。

 同じく水野が作詞作曲し、マーヴェラス西川(番組内での名前)こと西川貴教をボーカルに迎えた挿入歌「DAIJOUBU!」(2018年度)は、一歩前に踏み出せない少年少女たちの背中を押す楽曲。〈困難さえ おもしろがれるさ みんなとなら〉、〈ぼくらならつかめるさ〉とこちらでも誰かを孤立させずに、手を差し伸べている。ポジティブなキャラクターが印象的な西川だが、自身が携わる『イナズマロックフェス』では2016年、2017年と自然災害の影響で途中でのイベント中止を余儀なくされる悔しい出来事が続いた。それでも彼は前を向いていた。またトレーニングを欠かさず、50歳になって「ベストボディ・ジャパン2020 日本大会」のモデルジャパン部門ゴールドクラスで優勝を飾るなど自らの肉体をもって可能性を示し続けている。

 1998年から2014年まで続いた音楽コーナー「ミュージックてれびくん」にも名曲が揃っている。作曲・奥田民生、作詞・サエキけんぞうの「ゴォ!」(1999年度『天才てれびくんワイド』)は〈ベロを出しても昨日を捨てよう〉と前進を促し、怒髪天が書き下ろした「英雄キッド」(2011年度『大!天才てれびくん』)も〈すすめ!この道は未来に続く〉と後ろを振り向かない。昨年度からオンエア中の『天才てれびくんhello,』エンディングテーマとしてn-buna(ヨルシカ)がプロデュースする「また明日」、「ハローハロー」でもその眼差しはしっかりと前を向いている。

 こうして続いてきた楽曲のメッセージを体現するかのように、出演当時は子役だったキャストの面々も、その後、芸能界にとって欠かせない存在に。生田斗真は俳優として躍進し、ウエンツ瑛士は留学を経て再び日本の芸能界の第一線へ。前田公輝は『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D~』シリーズの轟洋介役で存在感を放った。前田亜季も映画、ドラマなどにコンスタントに出演してキャリアを積み上げている。バラエティなどで活躍した大沢あかねは現在は3人の子どものママだ。小関裕太はテレビドラマ『わたしに××しなさい!』(毎日放送/2018年)での玉城ティナとのダブル主演や、連続テレビ小説『半分、青い。』出演も記憶に新しい。田原加奈子は“天てれ”卒業後、1996年から3年間、NHK Eテレ『いないいないばあっ!』で初代おねえさんに抜擢された。紆余曲折はありながら、しかし自分たちの未来を歩んでいる。

 『天才てれびくん』の音楽はこれからもきっとぶれることなく、時代性や少し先の未来をテーマに作られていくだろう。そんな楽曲をてれび戦士たちがどのように表現していくのか、これからも楽しみでならない。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter:https://twitter.com/tanabe_yuuki/

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