『天才てれびくん』シリーズが歴代てれび戦士たちと作り上げてきた名曲を考察 子どもの目線で歌われる時代性や未来がテーマに
1993年4月の放送開始以来、”天てれ”の呼び名で親しまれているNHK Eテレの人気番組『天才てれびくん』シリーズ。出演する子役たちが様々なチャレンジを経て成長していく様子を映し出す教育バラエティ。だがしかし、「子ども向け番組でしょ?」と油断してはならない。大人も興味深くチェックするべき番組なのだ。
“天てれ”は、音楽番組としても非常に優れている。オープニング/エンディングテーマや、番組内の音楽コーナーで演奏されてきた楽曲は時代の変遷や未来を題材とした内容が多く、いずれも子どもの目線に立ち、当時の時代性や社会の様子を敏感に捉えている。もちろん、子ども番組らしい明るいポップソングが目立ってはいるが、よく聴くとなかなかシニカルだ。
子どもの目線で歌われる時代や社会への風刺
1993年4月から1996年1月までオンエアされていた『天才てれびくん』音楽コーナー「ポコ・ア・ポコ」はとても刺激的だった。クリスティー・コーサルがボーカルとギターを、ウエンツ瑛士がベースを担当したユニット、クリス with CHU-CHU-くらぶの楽曲は、子どもの視点ならではの社会風刺が多数込められていたように思う。
たとえば「サンデーモーニング・フィーバー」は日曜の朝の心境をテーマに、”明日からまた学校か”とちょっと憂鬱になる気分を想起させる。「道草ブギ」は毎日の勉強に疲れた子どもたちがゲームセンターなどで道草をしてひと時の休息をとり、それを「大人が知らない時間」と表現。当時の日本は、1980年代半ばから激化した受験戦争の真っ只中。1990年代には女性の4年制大学への進学率も急増するなど、大学受験の倍率が上がっていた時期だ。我が子を良い学校へ入れようと教育に躍起になる親も多かった。同曲はそんな当時の”お受験”もモチーフの一つとしていることが垣間見える。
1996年度にてれび戦士6名によって結成されたバンド、ストロベリーパフェは生田斗真がギター、前田亜季がキーボードを担当。王様の作詞作曲による「SUPER KIDS ARE GO!!」は番組エンディングテーマとしてオンエアされた。同曲は、メジャーリーグ挑戦前のイチローや2002 FIFAワールドカップなどを背景に日本人が世界の舞台で羽ばたくことを期して、子どもたちにも同じく活躍してほしいという願いを込めていた。一方で〈オヤジもコギャルもバイバイバイ〉など、その時代のキーワードを交えたブラックジョークを含んだ歌詞も目を引く。
未来や時代性という題材は、オリジナル制作される番組のエンディングテーマからも感じられる。森若香織が作詞作曲を担当した2002年度『天才てれびくんワイド』のエンディングテーマ「LOVE IS POP」では〈哀しい出来事に負けないようにね〉と呼びかけ、翌年度のちはる(Kiroro)が作詞作曲を担当した「good day」では、ひとりでは困難に立ち向かえなくても、仲間となら未来を切り拓いていけることを歌っている。ここでどうしても頭に浮かぶのは、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件や、日本に到来した超就職氷河期などだ。明るい未来なんてやって来ないんじゃないか? と、疑う気持ちが生まれていたなかで、“天てれ”は、番組内容や楽曲を通して子どもたちに希望を与えようとしていたのではないだろうか。