【鼎談】花譜×Aqu3ra×中村紬、かつてないアルバム制作での刺激 合理性に絡め取られない物語=『深愛』に至るまで

花譜×Aqu3ra×中村紬:『深愛』鼎談

 花譜の5thアルバム『深愛』が5月27日にリリースされた。昨年秋に制作が発表された本作は当初「ある“特殊なプロジェクト”として進行中」と一報され、その全貌を楽しみにしていた観測者(花譜のファンネーム)もきっと多いことだろう。今年2月に専用サイトが解禁され全貌が明かされたが、今作最大のポイントはやはり「音楽と小説、そしてライブの3コンテンツで“物語”として体験するアルバム」という点にある。これまで様々な界隈で音楽を元にした小説、あるいは小説を元にした音楽といった事例は多数見受けられてきた。しかし今回のように、音楽・ライブ・小説がすべて並行しながら物語を紡ぐケースは非常に稀なクリエイティブだと言えるだろう。

 そこでリアルサウンドでは、本作『深愛』を紐解くべく、花譜、収録曲「エコーノイズ」のコンポーザー・Aqu3ra、そして『深愛』と共に物語を紡ぐ小説『カミュの歌鳥 花譜小説集』執筆者・中村紬の3名による鼎談を行った。『深愛』のプロジェクトとしての経緯や三者それぞれの創作方法、今年3月に開催された『花譜 5th ONE-MAN LIVE「宿声 / 深愛」』との連動性に至るまで。互いの表現へのリスペクト、そして本プロジェクトに対する深い愛情に満ちた、穏やかな対話の模様をお届けしたい。(曽我美なつめ)

花譜 #166「深愛」【Short Trailer】

愛の物語にして“AI”の物語 プロジェクトの発端から振り返る

――まず今回のプロジェクトの起点として、プロデューサー・PIEDPIPERさんの「小説を起点にして音楽を生み出す」という発案があったと伺っています。

花譜:これまで音楽を起点にゲームやアニメへ物語が展開することは、それこそ花譜だけでなく、KAMITSUBAKI STUDIOとしてもよくやってきたんですけど、今回は小説を起点にして音楽の制作が進んでいくという形が新しいなと思いまして。

――このコンセプトを見た際、やはり「具体的にどう制作が進行したのか」ということがまず知りたくなりました。

中村紬(以下、中村):発端からお話しすると、私がもともとPIEDPIPERさんといろんなお仕事をご一緒する中で、「こういう新しいプロジェクトをしたい」とお話をいただいたんです。「まず話のプロットを作ってほしい」と言われ、内容のご希望については「愛の物語にしたい」「AIを出したい」という2点だけを伺いました。個人的にも花譜さんのアルバムライブには、最初の恵比寿LIQUIDROOM(『花譜 1st ONE-MAN LIVE「不可解」』)からすべて足を運んでいまして。もともと大ファンだったこともあり、お話をいただいた時にすぐぼんやりアイデアも浮かんで、その翌週には簡単なお話のプロットを提案したんです。各クリエイターさんへの発注もそのプロットをそのままお送りする形でも全然よかったんですが、人によっては具体的すぎて逆にやりづらい方もいるかもしれないということで、プロットから各話のタイトル案やキーワードを5~10個抽出し、必要な方にはそちらをお渡ししていました。最終的に楽曲制作の元にしていただいたのは、キーワード、プロット、書籍にしていただいたものとほぼ変わらない小説原稿の3パターンです。プロット作成の後、かなり早い段階で小説の執筆も完了していたので。その後、デモ音源が出来上がり次第いただき、物語に合わせて歌詞の一部を引用させていただくなどの微調整を行いました。

――では、でき上がった小説を実際に読んだ時の心境も花譜さん、Aqu3raさんにお伺いしましょうか。

花譜:やっぱり小説を読んで感じたのは、歌詞の引用や曲の空気感が物語とすごくリンクしていることで。曲単体で感じたのとはまた違う感情が、小説を読むことでどんどん広がっていく感覚もありましたね。それこそAIについては普段から自分もよく考えているんですが、このままAIのできることが増えていくと、人が動く意味や私がやるべきことは少なくなるのかなと思ってしまうんです。だけど自分が手を動かしたり、言葉を覚えて相手に伝えたいって思うこと自体が愛というか、今のところ人にしか持ちえない感情で。それを原動力にして、みんな誰かを守ったり何かを作ったりしてるよなって、改めて感じる読書体験になりました。

 小説には尊敬していた人がAIによって仕事を奪われたり、AIによるリストラで他者から恨みを買うシーンがあるんですけど、まさに抗えない時代の波というか。AIの進化自体はすごいこととされていますが、その中にある小さな絶望や不安って、これからどんどん当たり前になって、みんな気にしないものになると思うんです。そういうことが自分の今感じている不安や、「この先どうなるんだろう」という気持ちと重なる部分も大きかったですね。

中村:ありがとうございます。そう読んでもらえて嬉しいです。

花譜:ちなみになんですけど、物語の中でスパイだったキャラクターがいたじゃないですか。あの人はやっぱり、雛ちゃんのことは全然好きじゃなかったんですか? 読んでて本当に悲しくなっちゃって……(苦笑)。

中村:そうですね……各登場人物の心情は、ぜひ花譜さんに自由に想像していただければと思うのですが(笑)、物語全体としては、中盤で準主役の千遥くんと雛ちゃんの人生を時系列で見せて、後半で雛ちゃんが自分のことに気づき始め、ラストでどういう展開だったかの理由が判明する、みたいな。全体を通してそういう構成にしています。執筆者的な裏話を少しすると、小説の各話はなるべくバリエーションに富んだ物語にしたかったので、花譜さんからご質問いただいた真ん中のあたりでは悲しい物語を一つ作りたかったんです。当初はあの結末ではなく、純粋な恋愛の物語でもいいなと思ってたんですよ。ただ、物語のラストにつながる伏線にもするために、あえて作った側面もあって。スパイだった男の子は、名前を一度も出してないんですが、当初の原稿で、個人的には魅力的なキャラとして描けたと思っていたので、ラストの裏切り描写を書くのが作者としても正直しんどかったですね。楽曲を制作いただいた傘村トータさんにも、歌っていただいた花譜さんにも、2人の親密な関係性を込めていただいたので、申し訳ないな……と思いつつ。物語単体であれば純愛モノの結末でもよかったんですが、アルバム・小説を通して一つのお話にするために、花譜さんがおっしゃるような結末になってしまいました。

Aqu3ra:自分は今回の小説の世界観が少し先の未来、でもそんなに遠くない想像できる近さだなってすごく思って。すでに現実の世界も、高次元のAIが管理する社会が近づいていて、今まさに一般的にAIが普及しているタイミングだと感じてるんです。僕もAIに興味を持ったのは去年ぐらいですけど、そこから考えてもめちゃくちゃ進化が速くて。それに対して恐怖的な気持ちもあるし、好奇心もあるし。今のスピード感だとAIが汎用的になる未来って相当早く来る気もするんですけど、その情景が小説を読むとすごくスッと入ってくるんですよね。そうなると今後、何が起きるかも小説ではちょっと暗示されてますよね。合理性が秩序のために優先される、みたいな。でもそれって、“自然”や“人間性”とは相反するもので。合理性がすごく進んだ世界観では、自分の存在意義や尊厳が壊れているかもしれない。でも作品の主人公は、そういう社会に不調和なもの、熱いものを最後まで持ち続けている人で。それがちょっと希望の光のようにも感じて、その背中を追うような気持ちで読み進めていました。

 ミステリー的な感じもありましたよね。行ったり来たりする時間軸に翻弄されて、「あれってこれだっけ?」「あ、そういうことか」みたいな。それが繋がっていく楽しさもありつつ、「なんか人の脳の思考回路みたいだな」って途中で思ったんです。私たちが過去を振り返る時も、思考があちこちに飛んだり、どれがいつとか明確には覚えてなくて。でも大切な思い出って、時系列に関係なく最後はちゃんと自分の一部になるじゃないですか。未来への恐怖みたいなものも確かにあるけど、最後はやっぱり人が持つミラクルさや希望を信じたいって思ったり、自分の過去も今一度大切にしてあげたいなって。そんなことを思ったりもしましたね。

中村:すごく嬉しいです。確かプロジェクトは2年近くに渡ったんですけど、お二方の言葉ですべての苦労が消えてなくなったような気がします(笑)。

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