富田美憂、豊崎愛生、降幡 愛……巧みなサウンドとメロディが光る女性声優の新作群

 2021年も半分が過ぎ、夏クールのアニメ作品も続々と放映が開始し、制作会社らは新しいアニメ作品を手がける旨を発表する時期に入ってきた。そんな半年という区切りに合わせてか、女性声優の楽曲も印象的なリリースが続いてきたように思う。今回はそんな印象的な作品群から、富田美憂、豊崎愛生、降幡 愛の3作品をピックアップしてみたい。

 2019年11月にソロデビューを果たし、これまでに3枚のシングルを発表してきた富田美憂が、6月30日に1stアルバム『Prologue』をリリースした。

富田美憂『Prologue』(初回限定盤)

 現在21歳の彼女が声優に興味を持つきっかけとなったのは、幼いころに知った水樹奈々や宮野真守らがメディアに出ていたからだという(※1)。自身を魅了した先輩らと同じフィールドへとたどり着いた彼女のデビューアルバムは、先に発表されていたシングル表題曲を除く、新曲7曲全てが自ら提案したテーマやビジョンに沿って制作されている。

 クリエイティブユニット・(K)NoW_NAMEにも参加し、声優・アニソン・ゲーム音楽関連にて近年活躍が目覚ましい睦月周平、King & Princeの「I promise」や堂村璃羽の楽曲プロデュースなどを手がけているGRP、さらに山崎真吾やebaといった実力ある作曲家が参加している。

 デビュー曲となった「Present Moment」はピアノから導入し、ストリングスとギターサウンドが絡み合い、スネアの小気味いい打音とともに楽曲を盛り上げていくポップソングで、それに合わせて富田のボーカルは軽やかなテンポで歌っている。今作には3rdシングルの表題を飾った「Broken Sky」や、2ndシングルのタイトル曲として睦月が作編曲を手掛けた「翼と告白」など、ストリングスとバンドサウンドを中心に置いた、これぞザ・声優ソングともいえよう楽曲を真っ向から受け継いでいるようだ。

富田美憂 / Present Moment(TVアニメ「放課後さいころ倶楽部」オープニングテーマ)

 とはいえ、そういったサウンド一色で染め上げたわけではないのは、アルバム序盤の楽曲からもわかる。アルバムリード曲でGRPが作編曲に参加した「ジレンマ」は、コーラスワークやボーカルをうまくエフェクティブにエディットしつつ、富田本人も扇情的に歌ったR&B系統のミディアムバラード。それに続くのは山崎真吾が作編曲した「Run Alone!」で、歪んだギターとシンセサイザーに加え、ハウスミュージックらしい4つ打ちのキックサウンドが混ざったエレクトロな1曲だ。

 その他にも、聴きごたえある楽曲や富田の力強いボーカルを封じ込めた今作は、彼女のプロローグを飾るにふさわしい力作となった。

富田美憂 1stアルバム『Prologue』ダイジェスト試聴

 次にピックアップするのは、スフィアのメンバーとしても活動している豊崎愛生。実に約5年ぶりとなるオリジナルアルバム『caravan!』を発表した。

豊崎愛生『caravan!』(初回生産限定盤)

 豊崎愛生のソロ活動というと、活動初期からミュージックラバーな一面が伺え、自身の音楽性にもしっかりとフィードバックしてきた。Chara、クラムボンのミトや原田郁子など、当時はまだアニメ・声優のフィールドには参加していなかったシンガーやバンドらが彼女の楽曲に多数参加。声優音楽に関わるクリエイターが増えていくきっかけを作った一人だ。

 2018年を最後に止まっていたソロでのアーティスト活動だが、スタッフの助言もあり、スフィアとしての活動がいちど落ち着いたタイミングで再開へと動こうとしたという。しかし、コロナ禍となり、楽曲制作はおろか声優としての活動にも大きな支障を及ぼし、生活スタイルも変えざるを得ない状況となってしまった。

 今回のアルバムには、ミトのほか、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也、土岐麻子、さかいゆう、佐藤良成(ハンバート ハンバート)、たむらぱん(田村歩美)らが参加。「ランドネ」「TONE」といった以前の彼女らしいフォーキー&カントリーな楽曲が本作のコアを担いながら、「ライフコレオグラファー」「March for Peace」などのダンサンブルなナンバーやハウス〜エレクトロを踏襲したサウンドもあり、これまでの彼女にはなかったタイプの楽曲も揃っている。豊崎にとって本作は、これまでで最も音楽的にチャレンジを試みた1枚と言ってもいいだろう。

豊崎愛生 / それでも願ってしまうんだ (Short ver.)

 同時に、ネガティブなムードを、彼女らしいポジティブなメッセージとして届けようとしているのにも注目したい。特に注目すべきはアルバムのトップを飾る「それでも願ってしまうんだ」。作詞を田淵智也、作編曲をミトがそれぞれ務めている。ファンキーなシンセベースをキーにしつつ、オーセンティックなソウルナンバーのようなゆるやかな横ノリのグルーヴに、文字数を細かく詰め込んだメロディライン、かつくっきりとしたギャップを持った楽曲だ。豊崎といえば、ウィスパー気味のソフトタッチな声をイメージするリスナーもいるだろうが、この曲に関して言えば豊崎は芯が通った硬質な声で〈幸せを証明してみたいんだ〉と歌っていく。

 「私自身もそうですが、エンタメ全体で先の見えない状態が続いていて、〈砂漠みたいだな〉と。でも、音楽をやっている人は楽器や歌で旅を彩りながら前に進んでいける。そのイメージが〈キャラバン〉と重なったんですよね」と答えるのは、豊崎本人だ(※2)。

 10年前にデビューアルバムを発表した際は、東日本大震災とタイミングが被っていたことを思い出す。10年が経過した今、厳しい世相を受け取りながら、豊崎は音楽的な冒険とポジティブな言葉を届けるキャラバンとなった。この作品に彼女のしたたかさや懐の深さを感じるのは筆者だけだろうか。

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