リリックビデオ再生数1200万回超え、神サイ「夜永唄」ヒットの背景にあるもの ネット経由で伝播したバンド特有の個性

リリックビデオ再生数1200万回超え、神サイ「夜永唄」ヒットの背景にあるもの ネット経由で伝播したバンド特有の個性

 8月16日、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で、SNS・ストリーミング配信サービスから生まれるヒット曲の特集が放送された。番組では、“TikTokで気になる曲を見つける→YouTubeでMVをチェックする→ストリーミングでフルサイズの音源を聴く”というリスナーの傾向を踏まえ、今話題の曲を生み出しているアーティストのなかにはCDをリリースしていないアーティストもいることに言及。それを新たなヒットの形として紹介した。

 番組内では、とある月におけるLINE MUSICのランキングが取り上げられた。そのなかで12位(邦楽ロックチャートでは1位)に位置付けていたのが、神はサイコロを振らない(以下、神サイ)の「夜永唄」だ。

 「夜永唄」は、2019年5月にリリースされたミニアルバム『ラムダに対する見解』の収録曲。SNSユーザーによる動画投稿から火がつき、リリースから約11カ月を経て、各種チャートに突如ランクインするようになった(参照:Billboard JAPAN)。YouTubeで公開されたリリックビデオの再生数は、1200万回超え。その勢いを追い風にして、バンドは今年7月、デジタルシングル『泡沫花火』をリリースし、メジャーデビューした。

神はサイコロを振らない「夜永唄」【Official Lyric Video】

 神サイの土台にあるのは、いわゆるギターロック的なアンサンブル。当初はポストロック色の濃い曲が主だったが、主軸をまっすぐ保ったまま、リリースごとにアプローチを広げた。特に『ラムダに対する見解』は、バンドにとって初めてのトライが詰まった意欲作にあたる。柳田周作(Vo)による歌詞は現状全て日本語。どこを切り取っても言葉選びが端正で、日本語特有の響き・字面の美しさが引き出されている。

 「夜永唄」は確かにTikTokから認知を広げた曲だが、神サイを“ネット発のアーティスト”と呼ぶのはやや違和感がある。なぜなら彼らは、2015年の結成以来、ライブハウスを主戦場として活動してきたからだ。対バン系のイベントやサーキットに行けば、かなりの確率で神サイの名前を見かけた覚えがある。当時ライブハウスで人気を集めやすかったのは、身体を動かして盛り上がれる曲、早いテンポで観客を踊らせる曲を演奏するバンド。対して神サイは、静寂と激情のコントラストで以って観る者を惹きつけるような――享楽的ではなく、むしろ観客にも集中力を求めるようなライブを展開していた。

 彼らの存在は、インディーズバンドシーンにおいて明らかに異質だった。その点は、柳田の歌声に関しても同様。空気成分の多い柳田の声質および発声は、バンドサウンドのなかでも平然と映える声――腹から出したような太い声や、突き抜けるような甲高い声――で歌うボーカリストの多いライブハウスでは、なかなか稀だった。

 ライブハウスで経験を重ねてきたバンドでありながらも、ライブハウスシーンのトレンドに迎合することなく、個性を尖らせ続けているバンド。彼らに対してそういう印象を抱いていたため、“神サイの曲がTikTokで話題になっている”と知ったとき、「意外だ」とも思ったし、「分かるかも」とも思った。爆音の中だと気づきづらい柳田の特徴的なブレスも、イヤホンだとよく聴こえるし、それ自体がリズムを生んでいることがよく分かる。それは一つの例だが、このように彼らの個性が、SNSやストリーミングというライブハウスとは別のフィールドにおいて、輝きを見せている現象が興味深い。加えて今は、ほとんどのバンドがライブ活動をできておらず、新しい活動方式を模索している状況。こういう形での神サイの飛躍は、インディーズバンドシーンにおける希望になったのでは。

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