デヴィッド・ボウイはいかにして“ジギー・スターダスト”になったのか 『世界を売った男』50周年記念作品から活動の軌跡を辿る

デヴィッド・ボウイが“ジギー・スターダスト”になるまで

スパイダース・フロム・マースによって生まれ変わったバンドサウンド

 続くシングル曲は1970年11月に録音され、71年1月に発売されるM11「Holy Holy / ホーリー・ホーリー」。『世界を売った男』の録音が70年4月~5月、発売が11月4日だ。「ホーリー・ホーリー」の録音が11月9日だから『世界を売った男』の発売を受けての録音だ。『世界を売った男』は周知の通り、ミックの参加で新しいボウイの「ロック」を創り出した。しかし、この「ホーリー・ホーリー」は快進撃を開始したT. Rexをもろに意識した作風だ。迷いに突入している。語られることの少ないこの曲は、まだまだボウイが悩み多かったことを象徴している。せっかくバンドの体制を作ったのにミック、トニーは参加しておらず、プロデュースとベースは「スペース・オディティ」に参加したハービー・フラワーズ、ギターはアラン・パーカー、ドラムはバリー・モーガンという、ハービーのバンド Blue Minkのメンバー。一方で『世界を売った男』はトニー、ミック、ウッディ、キーボードのラルフ・メイスで録音されたのだ。

 続くM12〜15のセクションは『SOUNDS OF THE 70’S: ANDY FERRIS SHOW / サウンズ・オブ・ザ・セヴンティーズ:アンディ・フェリス・ショウ』で、70年3月25日に録音され4月6日に放送されたもの。3月25日という収録日から、ドラムは3月末に脱退したといわれるジョン・ケンブリッジであったと思われる。ギターはミック、ベースはトニーだろう。注目すべきは、ミックが初参加した2月5日のライブから50日足らずしかたってないにも関わらず、バンドが完璧に「スパイダース・フロム・マース」調に変貌していることだ。フォークの面影は全くない。フラットにおける共同生活とリハーサルが生んだ結果だろう。見事なまでのロックサウンドの構築ぶり。こうまで変われるものか。

 きっかけと思えるのが、The Velvet UndergroundのカバーであるM12「Waiting For The Man / 僕は待ち人」。それまでのボウイにはなかったハードかつヘヴィなブギーで、グラムのボウイが現出した。水を得た魚のようにボウイがセクシュアルにシャウトする。それを可能にしたのは99%ミック・ロンソンの功績。なぜなら、その後ドラム、ベースが入れ替わってもサウンドが変化しなかったからだ。表題曲のM13「The Width Of A Circle / 円軌道の幅」も生まれ変わった。フォーク曲M14「The Wild Eyed Boy From Freecloud / フリークラウドから来たワイルドな瞳の少年」さえも表情を変えた。

 注目は『世界を売った男』のラストを飾るM15「The Supermen (Bowie At The Beeb vinyl only) / スーパーメン」の編曲もほぼ完成させていること。『世界を売った男』は多くの解説で、ボウイが曲書きを行わずにスタジオに入り、曲を完成させるのに周りがヤキモキしたということだが、この盤のサウンド自体はレコーディングに入る4月17日の前の3月25日のこの録音で、すでに完成されていた。ミック・ロンソンとボウイの出会いはThe Rolling Stones級の化学反応をわずか50日で興していたのだ。栄光へのロードは、短期間で待ったなしの状態となったのである。

 そしてM16〜20は『2020 MIXES / 2020ミックス』。リミックスはもちろんトニー・ヴィスコンティ。ボウイにとってステップに歯ぎしりしていた時期のこれらの曲、当時のミックスの出来は、トニーには心残りが多かったのだろう。M20「Holy Holy (2020 Mix) / ホーリー・ホーリー」は、他人にプロデュースされてしまったものを自分のものにしている。最新のテクノロジーによって美しく生まれ変わったこれらのバージョンに、ボウイも天国で微笑んでいることは間違いない。

 大変に長くなったが、ボウイがいかにして世の中に出たか、これでお分かりだろう。それを発見できるこの盤の意義はとても大きい。義理深いボウイのこと、天国では世話になった盟友ミック・ロンソンと旧交を十分温めているはずだ。

P.S.
スパイダース・フロム・マースの解散については、映画『ビサイド・ボウイ ミック・ロンソンの軌跡』(2017年)に詳しく述べられている。ファンは必見。

※1〜6:『トニー・ヴィスコンティ自伝 ボウイ、ボランを手がけた男』参照

■サエキけんぞう
アーティスト、作詞家、1958年7月28日、千葉県出身。1980年ハルメンズでデビュー、85年徳島大学歯学部卒。86年パール兄弟で再デビュー、作詞家として、沢田研二、小泉今日子、サディスティック・ミカ・バンド、モーニング娘。マクロスΔ(アニメ)、他多数に提供。著書「歯科医のロック」他多数。2003年フランスで『スシ頭の男』でデビュー、12年「ロックとメディア社会」でミュージックペンクラブ賞受賞。16年パール兄弟30周年を迎え再結成活動本格化。19年「歩きラブ」20年秋渋谷クアトロで矢野顕子と共演。ロックを中心とした現代カルチャー全般、特に映画、などに詳しく、新聞、雑誌などのメディアを中心に執筆も手がける。

■リリース情報
デヴィッド・ボウイ『ウィドゥス・オブ・ア・サークル ~円軌道の幅~』
2021年6月9日(水)発売 ¥3,850(税込)

<CD1>
『THE SUNDAY SHOW INTRODUCED BY JOHN PEEL / ザ・サンデイ・ショウ・イントロデュースト・バイ・ジョン・ピール』
Recorded on 5th February, 1970 and broadcast on 8th February, 1970
01. Amsterdam / アムステルダム
02. God Knows I’m Good / 神は知っている
03. Buzz The Fuzz / バズ・ザ・ファズ *
04. Karma Man / カーマ・マン *
05. London Bye, Ta-Ta / ロンドン・バイ・タ・タ *
06. An Occasional Dream / おりおりの夢 *
07. The Width Of A Circle / 円軌道の幅
08. Janine / ジャニーヌ *
09. Wild Eyed Boy From Freecloud / フリークラウドから来たワイルドな瞳の少年 *
10. Unwashed And Somewhat Slightly Dazed / 眩惑された魂
11. Fill Your Heart / フィル・ユア・ハート *
12. The Prettiest Star / プリティエスト・スター *
13. Cygnet Committee / シグネット・コミティー
14. Memory Of A Free Festival / フリー・フェスティバルの思い出

<CD2>
『THE LOOKING GLASS MURDERS AKA PIERROT IN TURQUOISE / ザ・ルッキング・グラス・マーダーズ aka ピエロ・イン・ターコイズ』
01. When I Live My Dream / 僕の夢がかなう時 *
02. Columbine / コロンビーナ *
03. Harlequin (aka The Mirror) / ハーレクイン(aka ザ・ミラー) *
04. Threepenny Pierrot / 三文ピエロ *
05. When I Live My Dream (Reprise) / 僕の夢がかなう時(リプリーズ) *

『SINGLES / シングルズ』
06. The Prettiest Star (Alternative Mix) / プリティエスト・スター(オルタナティヴ・ミックス) *
07. London Bye, Ta-Ta / ロンドン・バイ・タ・タ
08. London Bye, Ta-Ta (1970 Stereo Mix) / ロンドン・バイ・タ・タ(1970ステレオ・ミックス)
09. Memory Of A Free Festival (Single Version Part 1) / フリー・フェスティバルの思い出(パート1)
10. Memory Of A Free Festival (Single Version Part 2) / フリー・フェスティバルの思い出(パート2)
11. Holy Holy / ホーリー・ホーリー

『SOUNDS OF THE 70’S: ANDY FERRIS SHOW / サウンズ・オブ・ザ・セヴンティーズ:アンディ・フェリス・ショウ』
Recorded on 25th March, 1970 and broadcast on the 6th April, 1970
12. Waiting For The Man / 僕は待ち人 *
13. The Width Of A Circle / 円軌道の幅 *
14. The Wild Eyed Boy From Freecloud / フリークラウドから来たワイルドな瞳の少年
15. The Supermen (Bowie At The Beeb vinyl only) / スーパーメン

『2020 MIXES / 2020ミックス』
16. The Prettiest Star (2020 Mix) / プリティエスト・スター *
17. London Bye, Ta-Ta (2020 Mix) / ロンドン・バ・タ・タ *
18. Memory Of A Free Festival (Single Version - 2020 Mix) / フリー・フェスティバルの思い出(シングル・ヴァージョン)*
19. All The Madmen (Single Edit 2020 Mix) / オール・ザ・マッドメン(シングル・エディット)*
20. Holy Holy (2020 Mix) / ホーリー・ホーリー *
* 未発表音源

■関連リンク
デヴィッド・ボウイ オフィシャルHP
デヴィッド・ボウイ WMJサイト

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