Ado、花譜、あぶらこぶ、未完成モノローグ……個人の才能で常識を打ち砕く“10代アーティスト”の力

Ado、未完成モノローグら“10代”の力

花譜

花譜 #22 「過去を喰らう」 【オリジナルMV】

 バーチャルシンガーの花譜は、音楽アプリに歌を投稿していたのをきっかけに、13歳にしてその歌声に魅力を見出された。「日本の何処かに棲む、何処にでもいる、何処にもいない」というキャッチコピーで、ピンクの髪のCGアバターを駆使し、リアルとバーチャルが融合したMVなどでも話題となる。2019年に開催された初のワンマンライブでは「#花譜不可解」がTwitterトレンドで世界1位を獲得。モンスターヒットとなった「命に嫌われている。」のカンザキイオリが全ての楽曲の制作を手がけており、感情の極限に迫るようなヒリヒリするような歌詞を唯一無二の声で歌い上げる。バーチャルアーティストという新たな可能性を今まさに切り拓いている存在だ。

未完成モノローグ

未完成モノローグ - デイムーン(Music Video)

 そして、花譜と同じようにごく早い年齢で見出され、新たなプロジェクトが始動したアーティストが誕生した。12歳のボーカリスト「ときのはな」を中心とした音楽プロジェクト、未完成モノローグだ。年相応の幼さでありながら、力強さも兼ね備えた歌声のときのはなをボーカルに、楽曲制作をボカロPの*Luna、イラストをキアシヨ、リリックビデオをkairiが制作するという布陣だ。

 楽曲自体は*Lunaの提供だが、ベースとなっているのはときのはな自身が吐露したメッセージだ。例えば、4月にリリースされた「はこにわ。」では、ときのはなのオフィシャルメッセージの中で「仲間にリーダーはいらない/リーダーは仲間ではなくなってしまうから/仲間の欠点は気にしない/仲間同士で足りない欠片を補うから」とあるのを、*Lunaが「はこにわ。」の中で、〈私たちの世界は 箱庭みたいだ/でもそれが全てで ありったけの今を生きてるんだ/私に有って 君に無い物がある だからこそ/同じ高さで話せたらいいな〉という形に昇華している。

 MVを見てもわかるように、「はこにわ」は教室のことを指している。日常生活の多くを学校で過ごしている生徒たちにとって、教室とそこにある人間関係は世界のすべてと言っても過言ではない。そこで生きるその難しさや閉塞感は多くの人が感じたことがあるだろう。

 また、5月27日にリリースされたばかりの「デイムーン」では、「取れなくなった仮面を剥がそう」と訴えるときのはなのメッセージを、*Lunaが疾走感のあるメロディに仕上げている。周りと同じであることを求められる息苦しさと、そこからどう脱して自分らしさを獲得するかというのもまた、思春期の多くが直面する課題だろう。同世代の多くが共感するであろうテーマを、12歳にしてここまで明確な言葉にできるのは稀有だ。

 瑞々しく危うく、それでも確かな芯の強さを感じるときのはなの想いから生まれた楽曲を見ると、「未完成モノローグ」という名は実にしっくりくる。

 様々なデバイスやツール、SNSの浸透によって誰でも自分の力だけで創作や発信ができるようになり、個人の才能の開花と、それを世の中が発見しヒットにつながるまでのサイクルは加速度的だ。そんな中で、年齢にフォーカスして「若い才能」と取り沙汰することはナンセンスになっていくのかもしれない。年齢も属性も場所も関係なく能力があれば誰でも世界に見いだされる可能性がある。彼らが今まさに作り上げつつあるそんな新しい世界から、振り落とされないよう追いかけていきたい。

参考:あぶらこぶインタビュー
https://www.cinra.net/interview/202103-aburakobu_ymmts

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。Twitter(@erio0129)

「デイムーン」 
「デイムーン」

■リリース情報
「デイムーン」 
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未完成モノローグ オフィシャルサイト

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