『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』クロスレビューVol.10:坂本 希「音楽との向き合い方を、自分の意思で決めていきたい」

「...不安や葛藤は伝わるし、それを高揚に変えていくダイナミズムの作り方も見事。だからこそ、みんなそうでしょう、では心の奥に突き刺さらない。俯瞰の人間論じゃない、あなたの話を聞きたい。」 

 書籍の話をする前に、まずは著者である音楽ライター、石井恵梨子さんの話をさせてほしい。

 冒頭の文章は石井恵梨子さんのディスクレビュー(2016年2月号のMUSICAに掲載された、Mrs. GREEN APPLEの1stアルバムに対するレビューの抜粋)だ。5年前、当時大学生だった私はこのレビューを読んだ後、いてもたってもいられず、石井さんにメールを送った。何を書いたかはあまり覚えてないし、今でも当時の感情を上手く言葉にすることもできない。ただ、この文章を読んで込み上げるモノがあり、これを書いた人に、とにかくそれを伝えたかった。

 以来、石井さんインタビュー、レビュー、コラムなどは可能な限りチェックするようになった。石井さんの書く文章の根底にはどれも「あなたの話が聞きたい」という明確な意思がある。一般論でも借り物の言葉でもない「あなたの話」をとても大切にしている姿勢、文章に強く惹かれた。

 そんな折、石井さんが新たに本を出したと耳にした。タイトルは『ロストエイジ20年史』。うーん、ロストエイジか。名前しか聞いたことがない。言ってしまえば、曲も聞いたことがない。(ごめんなさい)

 石井さんの書いた本なら読んでみたいが、ロストエイジを知らない人間がこの本を読んで楽しめるのか、、うだうだ悩みながらも、書籍を購入した。

 結論、とても面白かったです。既に読み終えた方なら共感してもらえると思うんですが、とにかく背筋が伸びる。何かやらなきゃと思う。

 「売れる夢はもう絵空事だ、生活に根ざした活動がしたい。」書籍の帯にもなっていたこの言葉。終局的には、五味さんの思考がここに至るまでのプロセスが丁寧に描かれた一冊だったのではないか、と思う。読む前と読んだ後では、この言葉の聞こえ方がまるで違う。

 確かに、何の反響も得られないまま表現を続けるのは、底のない井戸に石を落とし続けるようなもので、なかなかに辛い。それに耐えられずに多くの人が辞めていく。友人も多く辞めていった。だが、より多くの反響があれば(≒売れれば)、大概の人は表現を続けていくことができるのではないかと思う。だからこそ、「売れるが勝ち」という価値観が正とされ、皆が売れるためにその手段を模索している。

 だが果たしていったい、必ずしもその価値観に従う必要はないし、どんな形であれ、音楽がやりたいならやればいい。特定多数の反響があればいい。勝ち負けの基準なんか、自分で決めればいい。そう覚悟した五味さんにとっては、世間一般の言う「売れる夢」がもう絵空事としか思えなくなったのではないか。

 そう考えると、冒頭の言葉の聞こえ方がまるで変わってくる。五味さんは閉じることを選択はしたが、それは決して諦めから来るものではない、自分の価値観で生きていく決断をした、攻めの姿勢だ。

 現在、私は会社員として働きながら音楽をやっている。己の現状を鑑みた際に、私自身はどう生きていくべきなのだろうか。読了後、じっくり考えてもみたが、答えはまだ出ない。一朝一夕で答えが出るものとも思えない。「どうすべき」なんて話でもないのかもしれない。だが、時間がかかったとしても、自分なりの音楽との向き合い方を、自分の意思で決めていきたいと思う。

 なお、このレビューを書いている今でも、まだロストエイジの曲は聞いていない。ここまで来たら、奈良のTHROAT RECORDS以外の場所で、方法で、ロストエイジに、五味さんに出会いたくない。

 というわけで五味さん、コロナが落ち着いたら会いに行きます。その時は、お手柔らかにお願いします。

■坂本 希(メメント ムーメント)※写真左
千葉県八千代市出身。2020年12月、現役大学生の弟と「メメント ムーメント」を結成。主にベース、編曲、映像制作を行なっている。

■リリース情報
メメント ムーメント『Seequence』
2021年3月26(金)配信限定リリース
配信:https://linkco.re/yEDB5ptd
YouTube: https://youtu.be/Pquqp4jA1y4

■書籍情報
タイトル:『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』
著者:石井恵梨子
ISBN:978-4-909852-15-1
発売日:2021年2月25日(木)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint
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