DMX、バイラル上位に代表曲が多数ランクイン ラップミュージックのアイコンであり続けた波瀾万丈な生涯
DMXは、デビューアルバムから5作連続で全米チャート初登場1位を記録した史上初のアーティストである。この記録を含み、彼の最大の功績は、ハードコアヒップホップミュージックーーつまりあくまでラップをメインに据えたドープなヒップホップミュージックを、世界のオーバーグラウンドシーンに定着させたことではなかろうか。怒り、攻撃性、対立、抗議、反骨などを題材にした楽曲が多い。吠えるようなラップの中にシャウトを挟み込む独特のフロウ、オンビートの中にオフビートを滑り込ませるスキル、同単語を使いながらフック的に他の単語を挟み込むライミングには、クレバーさも垣間見られる。音数が少ないトラックながら強烈なインパクトを放ち、デビューと同時に一躍オーバーグラウンドシーンでラップミュージックのアイコンになった。
彼の人生は、幼少期からギャングスタラップをそのまま地で行くようなものだった。数多くの犯罪に手を染め、幾度となく逮捕されている。ラッパーとしてのキャリアがスタートしてからも、同様だ。2003年、5枚目のアルバム『Grand Champ』をリリースした後、今作を最後にラッパーを引退する考えであることを発表した。理由は聖職につくため。2009年には福音宣教に入ってゴスペルアルバムを完成させ、当時MTVの取材には、聖書を読む時間が欲しいと答えてセミリタイアしているが、その後ラッパー活動を再開、2枚のアルバムを残した。
そして今回の訃報。死因はオーバードーズによる心臓発作だと報じられている。逮捕歴だけ振り返れば悪人とも捉えられかねないDMXだが、彼をそう思っている人は、世界中にほぼいないだろう。むしろ、全盛期の中での突然のセミリタイアも含め、何かを失うことを恐れない怖いものなしの人という印象。つまり無敵。そういう意味では、ヒーローと言えるのではなかろうか。今週の世界各国のバイラルチャートが、彼がヒーローであったことを証明している。
■伊藤亜希
ライター。編集。アーティストサイトの企画・制作。喜んだり、落ち込んだり、切なくなったり、お酒を飲んだりしてると、勝手に脳内BGMが流れ出す幸せな日々。旦那と小さなイタリアンバル(新中野駅から徒歩2分)始めました。
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