渡辺志保が選ぶ、2020年HIPHOP年間ベスト10 世界が揺れ動いた年にリリースされたラップアルバムに注目

21 Savage x Metro Boomin『Savage Mode 2』
42 Dugg『Young & Turnt 2』
Gunna『WUNNA』
Kid Cudi『Man On The Moon III: The Chosen』
Lil Baby『My Turn』
Lil Uzi Vert『Eternal Atake』
Megan Thee Stallion『Good News』
Pop Smoke『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』
Run the Jewels『RTJ4』
Terrace Martin, Robert Glasper, 9th Wonder, Kamasi Washington『Dinner Party』

 未曾有のパンデミック、そして、ジョージ・フロイド殺害事件をきっかけにBlack Lives Matter(以下BLM)の旗のもと集った世界規模のプロテストなど、揺れ動いてばかりだった2020年。今年も、ごく私的な視点からベストラップアルバムを10枚選出した。これまで同様、アルバムの並び順はアーティストのアルファベット順としている。

 音楽を聴くプラットフォームはサブスクリプションサービスかTikTok、もしくはInstagram……と、どんどんお手軽なツールへと移っている。むしろ、大きなライブやコンサートが軒並み中止されてしまった今年においては、“すっかり移りきった”という表現の方が的確だろう。キャッチーなフックがTikTokなどの動画メディアと相性のいいラップミュージックにおいては、短い再生時間の間にどれだけSNSで映えるかどうか、ということが最優先事項となり、予期せぬシングルヒットが量産された一年でもあった。リル・モジー「Blueberry Faygo」、24Kゴールデン&イアン・ディオール「Mood」、サダ・ベイビー「Whole Lotta Choppas」などなど。特大TikTokヒットを放った後、その畑には何が残るのか。収穫の時を待ちたい(来るのか?)。

Megan Thee Stallion
Megan Thee Stallion『Good News』

 今年、TikTokをうまく利用してユーザーたちの視線を集め続けることに成功したのがミーガン・ジー・スタリオンだろう。まず、「Savage」がTikTokでバイラルヒット化し、それを受けて地元ヒューストンの大先輩であるビヨンセを招いたリミックスを発表。華麗にビルボード首位をかっさらった。その後、カーディ・Bとの「WAP」が論争を呼びつつも、様々な記録を塗り替える特大ヒット曲となったのはご存知の通り。いよいよ発表されたメジャーデビュー盤『Good News』においても、「Body」をリード曲に選び、 「WAP」の手法をそのまま取り入れたMVを発表(カイリー・ジェンナーやロザリアらがカメオ出演した「WAP」のMVだが、「Body」ではタラジ・P・ヘンソン、そしてカイリーの元親友であり現在はその仲が決裂してしまったモデルのジョーディン・ウッズらが登場する)。「WAP」に続き、“私のカラダは私が決める(My Body, My Choice)”のスローガンを体現してみせた。夏には恋人のトーリー・レインズに脚を二発撃たれるというトンデモ事件に巻き込まれたミーガンだが、『Good News』の冒頭では、そのスキャンダルを故ザ・ノトーリアス・B.I.G.「Who Shot Ya」のビート(をサンプリングしたトラック)に乗せて思い切りスピット。アルバム全体を見ると、あざとさを感じる大ネタ使いが目立ちすぎる気もするが、それはそれでミーガンへのファンファーレということにしておきたい。

 そして、今年は他にもカマイヤやムラート、シティ・ガールズといった女性ラッパーたちによる肉厚なアルバムもよく聴いた。<Griselda Records>のアルマーニ・シーザーによるデビューアルバム『The Liz』も好作であった。と同時に、ジェネイ・アイコ、ヴィクトリア・モネ、キアナ・レデ、ティー・マーら、女性シンガーらの言葉にもたくさんのユーモアと元気をもらった。

Run the Jewels
Run the Jewels『RTJ4』

 2020年のブラックミュージック界を振り返った時に外せないのが、やはりBLM運動の高まりだろう。一朝一夕に始まったプロテストではなく、このスローガン自体は2012年から叫ばれてきたものであるし、被抑圧者として自らの人権が侵害されていることや社会に組み込まれた構造的差別に苦しんでいることに関しては、アフリカンアメリカンのアーティストらが常にメッセージとして世に訴えてきたことでもある。そうした中、Run the Jewels『RTJ4』は強靭なパワーを持ったマシンガンのようなアルバムとしてストリートに鳴り響いた。こうした世の中の流れを予見するかのようなリリックやMVの数々(「Ooh LA LA」のMVは、まるでコロナ禍を皮肉ったような内容だが、コロナによるロックダウンが始まる前に撮影されたものだそう)。リル・ベイビー「The Bigger Picture」、ミーク・ミル「Otherside of America」などシングル単位でも力強い作品が多く生まれたが、まとまった作品としては、他にテラス・マーティン、ロバート・グラスパー、9thワンダー、そしてカマシ・ワシントンらによるプロジェクト『Dinner Party』が秀逸であった。ポリスブルータリティに対して歌った「Freeze Tag」や、タイトル通り、最前線で働く人々にむけた「First Responders」など、2020年の混沌の中だからこそ、誕生した美しい作品であろう。ちなみに本作には『Dinner Party: Dessert』(粋なタイトルですよね)と題された続編もリリースされており、そこでは「Freeze Tag」にコーデイ(YBNコーデイから改名)が参加したバージョンが収録されている。他、スヌープ・ドッグやタンク・アンド・ザ・バンガスのタンク、そしてビラルらも参加。

 アトランタのトラップシーンをひた走るリル・ベイビー『My Turn』、そしてガンナ『WUNNA』も肉厚なアルバムを届けてくれた。両者ともに、ビートに対するフロウのテクニカルさやデリバリーなど、作品をリリースするごとに進化を見せており、細かいアドリブの一つ一つにも成長を感じさせられた。この辺りは、プロデューサーのウィージーらの尽力よるところも大きそうだが。

Gunna
Gunna『WUNNA』

 ガンナはコロナ禍にYouTube上で行ったリリースライブも素晴らしく、医療従事者への寄付やN.W.A「F**k Tha Police」になぞらえたメッセージ、そして贅沢なバンドサウンドなど、どこを切ってもアツいパフォーマンスだった。また今年、リル・ベイビーにとっては強力な後輩格である42ダッグのブレイクもありがたかったのではないだろうか。彼のアルバム『Young & Turnt 2』もフレッシュなバンギンヴァイブスに満ちており、マネーバッグ・ヨー やティー・グリズリーといったMCらの作品と並べてよく聴いたアルバム。そして今年、ディープなアトランタ絵巻をきっちり描いて見せたのが21サヴェージとメトロ・ブーミンによるコラボ作『Savage Mode 2』だ。なんとモーガン・フリーマンまでをも招いて、サウスのヒップホップシーンへのリスペクトを表しながらアトランタのストリートマナーを滔々とラップする21サヴェージの姿には痺れるものがあった。グラミー賞のトロフィーを地元に持ち帰る「Runnin’」のMVも好作。



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