imdkmのチャート一刀両断!
モーニング娘。'21、3年ぶりアルバムで定義した“J-POP”とは? リズムの遊びに表れたユニークさ
たとえばアルバムの冒頭を飾る「愛してナンが悪い!?」は、1番Aメロの乱れ飛ぶ擬音やBメロの促音を生かした言葉のグルーブ感もまず面白いけれど、2番のAメロに出てくる思い切った休止がやけに耳にこびりつく。具体的にいうと〈単純明快がかっこいいじゃんSimple is best!〉の〈Simple is〉と〈best!〉の間に唐突に挟まれるタメ。1曲のなかであそこにしか出てこないのも謎めいていて、いっそう惹かれるところがある。
「KOKORO&KARADA」(シングルリリースは2020年)のサビで、ボーカルの譜割りを強調するようにリズム的なキメを連発するあたりもちょっと過剰で面白い。「人生Blues」(シングルリリースは2019年)のAメロでは、リズムを強調するために母音を別録りして違うメロディでかぶせるという異様な演出も飛び出す。つんく♂本人のライナーノーツによると「声をパーカッションみたいにして弾(はじ)きたかった」(※2)というが、かと思えば、Bメロから徐々にメロディが前面に出てきて、サビではマイナー調の歌謡曲的メロディになる(歌謡曲といっても、寺尾聰「ルビーの指環」みたいな感じだが)。
変拍子とかポリリズムといった意味での変わったリズムが飛び出してくるわけではないけれども、随所に思わず「変態」と言いたくなるようなリズムの遊びが入ってくる。その過程では、日本語が歪んだり伸びたり縮んだりといったイレギュラーな事態が当たり前に起こるが、たしかなスキルによって説得力のある歌唱になる。それがJ-POPなのだ、と言われたら、たしかにそうなのかもしれない(我田引水でしょうか……)。
※1:https://note.tsunku.net/n/n4ac1c481e5a9
※2:https://ameblo.jp/tsunku-blog/entry-12492053663.html
■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com