神田沙也加、TrySailら歌い上げる『IDOLY PRIDE』 清竜人、kzなどクリエイター陣に注目
『IDOLY PRIDE』は、サイバーエージェントグループとミュージックレイン、ストレートエッジが協力して展開する大型アイドルプロジェクトで、現在TVアニメがオンエア中だ。芸能事務所・星見プロダクションに所属するアイドルたちを中心とした物語が描かれており、『IDOLY PRIDE Stage of Asterism』とのタイトルでアニメより先にコミックスにて展開され、昨年からは音楽ライブの生配信、さらに今年はスマホゲームも発表予定と、まさにメディアミックスプロジェクトとして今後さらに注目を集めていくに違いない。
本作で見過ごせないのは、声優×アイドルという路線を2000年代後期から整えてきたミュージックレインが参画している点だ。起用されている声優にもミュージックレインを引っ張ってきたスフィア、TrySailが加わっており、本作の中心を担う星見プロダクション内のアイドルらも、多数の声優事務所からのオーディションだけではなく、『第3回ミュージックレインスーパー声優オーディション』の合格者を含めたメンバー構成となっている。
今回の記事では、アニメ『IDOLY PRIDE』内で披露された楽曲にスポットを当てていく。
本作でメインを張る星見プロダクションは、アニメ第5話で2組のグループに分けられ、“サニーピース”と“月のテンペスト”として活動していくことになる。現状10人で歌唱している際のアーティスト名義は星見プロダクションで、本作のOPとEDを務めている。
OP曲はプロジェクト名を冠した「IDOLY PRIDE」、作詞・作曲・編曲を務めたのはは清竜人だ。2014年には「一夫多妻制」を謳うアイドルユニット・清竜人25のメンバーとしても活動し、でんぱ組.inc、ももいろクローバーZといったアイドルはもちろん、堀江由衣、田村ゆかり、上坂すみれ、千菅春香ら女性声優らに提供してきた一連の楽曲なども踏まえ、「アイドル」と目される存在に楽曲提供するときに、清は遊び心やある種のキッチュさを投げがけてきた、印象深いシンガーソングライターだ。
そんな彼が制作した「IDOLY PRIDE」は、堀江由衣「The♡World's♡End」や上坂すみれ「ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡」で聴けるような、思わず笑ってしまうほどに突き抜けたアレンジメントをウリにはしていない。メンバー10人が代わる代わるリレーしていくボーカルワーク、歌いやすくコントロールされたメロディ、軽やかに跳ねていくドラムス、合いの手が入れやすいBPMなど、親しみやすいアイドルポップスとしての顔を担っている。
「IDOLY PRIDE=アイドルらしいプライド」(意訳)というタイトルから滲み出るオーソドックスさや、新米アイドルたちを丹念に描いていることからも分かるように、このプロジェクトは「アニメにおける新人アイドルと実際の新人声優を同時に応援する」というプロットをもった作品なのは言うまでもない。
本作で描かれる新人アイドルたちを象るようなキャラクターソングとして、それ以上に本作をきっかけに声優としても大きく出立していく10名の女性声優陣にむけて、「IDOLY PRIDE」は清竜人にとっての「アイドルらしさ」を届けた1曲と言えるのではないだろうか。
続いて、本作のヒロインの一人である長瀬琴乃(CV:橘美來)の姉である長瀬麻奈(CV:神田沙也加)の持ち歌とされている「First Step」にスポットを当ててみよう。
作曲編曲は田中秀和。『アイドルマスター シンデレラガールズ』での「Star!!」や『アイカツ!』での「カレンダーガール」などのアニソンヒット曲を手掛けてきた人物だ。「First Step」で特筆すべきは、「田中aug(オーギュメント)」とも評される独特のコード進行と、そのなかにドンと貫かれるメインメロディの強さだろう。BPMは220前後、スウィング気味な刻み方とグルーヴ、何度ととなく重なるオブリガードとフィルインによって、この曲のコード進行は次々に移り変わっていく。
しかもコード進行のいたるところにaugだけでなく、add7(アドセブン)やオンコードなどのを駆使して様々な和音が重ねられていき、単純なメジャーコードだけでは発しないハーモニーやコード感が押し寄せてくる。音色そのものはキレイだが、よくよく一聴すれば「なぜこんなハーモニーがここに?」と驚くはずだ。
この難曲を歌うのは、映画『アナと雪の女王』や劇場版『ソードアート・オンライン -オーディナルスケール-』などで素晴らしい歌唱を披露してきた神田沙也加。「First Step」の面白いところは、サビでは言葉ひとつ一つにしっかりと音符が入っており、メインメロディには細やかな抑揚があること。神田の歌声はハッキリと聞き取りやすいクリアな声色とロングトーンを持ち味としており、複雑にハーモナイズされたこの曲においても、メインメロディがより明朗になってリスナーに響いていく。
このような効果もあり、曲冒頭の歌詞〈心から好き、と思えるものに 巡り合えたって 初めて思えたよ〉が表しているような、明るいメッセージがリスナーへとしっかりと届くのである。戸惑いや不安の中にあっても、未知との出会いや昂ぶりが一筋の光となっていくような、細やかな演出がなされた楽曲だ。