SHE’S自身にも“追い風”が吹いているーー結成10周年アニバーサリーイヤー、地元大阪で幕開け

SHE’S、10周年キックオフライブレポ

 「10年やってくると色々あるけど、10周年が一番いい状況で迎えられてるって嬉しいことです」――終盤にドラムの木村雅人が発した言葉はバンドという形態で活動している、否、すべからくミュージシャンとしては意外な発言だろう。コロナ禍でこれまでのライブ、ツアーメインの音楽活動が抑制され、中には楽曲制作のモチベーションそのものをいかに保つか、悩んでいるバンドも多い時世である。だが奇しくもSHE’S(発端はソングライターの井上竜馬だが)は自分自身と向き合う作品、つまり去年のアルバム『Tragicomedy』を偶発的とはいえ作り上げたことで、従来のファン以外にも彼らの音楽が必要な人が増えたり、偶然の中でも個々の中でリアリティを持つことになったのだ。結成10周年のキックオフと位置付けられた地元・大阪は吹田市メイシアターでのライブはこのバンドのアニバーサリーイヤーが、単に数字上の記念というより、さらにここから加速していく始まりを示唆していたのだ。こんなバンド、なかなかいない。

 筆者は配信でモニター越しに視聴したのだが、開演前のホール背後からの映像、井上の開演前のアナウンスなど、これは地元ならではの計らいなのだろうか。なかなか達者だ。新旧織り交ぜたセットリストを予告し、しかも20時に音止めしなければいけない90分をどう構成してくるのか、息を飲む。1曲目は1stミニアルバムのオープナー「Voice」。メンバーのコーラスがライブアレンジを格段にアップデートしている。と、同時に〈君の声が聞こえるように/耳を澄ましてここにいるから〉というサビのフレーズに、改めてこのバンドはファンにとっての家もしくはシェルターのようだと思った。そしてそれはこのライブに通底していた。厚い信頼感を持った上で欺瞞を暴く「Unforgive」に突入。曲調は急転直下、しかし同じ人間の思いが芯にあることで、ただカッコいいクールな曲で終わらない。『Tragicomedy』のツアーで磨かれてきたこともあるが、服部栞汰(Gt/Cho)のオブリがさらに冴え渡る。

 ピアノロックバンドであるという初期からの井上の意思がバンドを牽引してきたことを再認識させた「Night Owl」と、エレクトロニックな部分をほぼ完全に同期に託して生音になだれ込むカタルシスを鮮やかに生み出した「Clock」の対比。「Ugly」での静かな怒りを託すような広瀬臣吾(Ba/Cho)の不穏なシンセベースと、一気に生々しさを増すサビのメリハリ、怒気を秘めると色気が増す井上の表現力も高い完成度を見せた。

 そしてこの日のハイライトは井上の念願かなってのグランドピアノ(生ピアノ)導入の2曲から連なる中盤だったと言っていいだろう。ピアノイントロなり、ピアノリフが曲を牽引するレパートリーは多いが、何を選曲してくるのだろう? と思った矢先、「Tonight」のイントロ。左手の低音が生ピアノならではの力強さだ。加えてステージ奥の壇上で客席を向いていない分、心なしか井上が自分自身に向き合って歌っている印象を受けた。繊細なピアノのタッチに乗る〈君が笑う理由なら/すぐ傍に溢れているから〉、そして〈僕らは生きてこそだ〉で力を込める。メンバーもさりげなく寄り添うようなアレンジで各々の中で歌っているように見受けられた。さらにシンバルの4カウントからの「Long Goodbye」。20代前半からさらに別れなど経験を重ねたであろう彼らが今歌う、つないでいく愛のようなもの。愛とか信頼を歌って嘘っぽく聴こえないのはなぜか。この日のこの2曲での井上の歌う姿勢とバンドの曲へのスタンスを見れば明らかだった。井上の死生観に裏打ちされた作品が、これまで以上に血の通った、剥き出しの表現で鳴らされた瞬間だったように思う。エレピに戻りファンと向き合っての「Your Song」、そして「Letter」。この4曲のブロックはSHE’Sの芯の部分に違いなかったし、これからもそうであるに違いないと思わせる透徹した演奏だった。

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