Little Glee Monster、芹奈不在で臨んだ全国ツアー日本武道館公演 オンデマンド配信から感じた4人の決心の重み
曲間に挿入されたドキュメンタリー映像では、芹奈抜きでツアーを開催することの意味や決断について、4人がそれぞれの言葉で語っていく。その決断の中にはコロナと向き合いライブをする/しないの選択も含まれており、我々が想像する以上に大きな決断が迫られたことが伝わる。情勢に合わせた形でのライブ制作、4人編成での歌割り変更、限りある時間の中で本番は刻一刻と迫っていく。そんな状況下で「早く一緒に歌いたい」(アサヒ)、「芹奈の役は誰にも埋められない。また5人でここに戻ってこられるように」(manaka)と芹奈への思いもより強いものへ……こうした4人の言葉を耳にしてから接する武道館公演は、より重みを感じながら向き合うことができたはずだ。
ライブの煽りをかれんが中心になり進行したり、MCではアサヒやMAYUが大活躍したり、そして本番に向けた制作段階ではmanakaを中心にメンバーの意思をまとめる。時にはリハーサル中に涙を流したり、あるいは武道館公演のMCで落涙することもあった。そういった一人ひとりの強い思いが伝わるこの映像をツアー序盤のこのタイミングに配信することは、普通に考えたら異例のケースだ。受け取り方によってはリスキーとすら感じることもあるだろう。しかし、それでも……2021年1月のLittle Glee Monsterをありのまま見せることに意味があった。筆者はそう理解している。
今回のライブで印象的なタイミングに披露された「足跡」に、以下のフレーズがある。
〈変えたい日々が報われずに 孤独で涙流した夜があるけど 無駄なんてなかったと 思える日がくるから〉
この歌詞はメンバー自らが作詞したものだが、今のLittle Glee Monster……ステージに立つ4人、そして休養中の芹奈の姿と重なる。もちろん、彼女たちはこんな未来を予想して書いたわけではないが、メンバーにとって大切なこの1曲が今回のツアーを通じて、どれだけ大きな意味を持つものに進化していくのかにも注目しておきたい。
さらに、「足跡」と同じくらい重要な役割を果たすのが最新シングル「Dear My Friend feat. Pentatonix」の存在だ。Pentatonixの5人と“声のみ”で作り上げられたこの曲、ライブではバンドメンバーなしで、ボイスパーカッションを含むPentatonix歌唱音源を使用して披露されるのだが、オフィシャルサイトで実施中の「Dearest Voice企画」を通して集まったファンの歌声を重ねることで、今回のツアータイトルにもある“Dearest=親愛なるあなたへ”という言葉の意味がより重みを増したように感じられた。会場で一緒に歌えない、会場に行きたいけどこの情勢を省みて断念した、そんな人たちも一緒に参加することができる貴重な機会は、今回のツアーにより彩りを与えてくれることだろう。
ライブのエンディングでは、芹奈からのメッセージもスクリーンで紹介された。シンプルな言葉からは、姿はそこにはないものの強い意思と前向きさが十分に伝わり、あの素敵な歌声を生で聴くことができる日もそう遠くないのではと感じられた。その頃には、今ステージに立つ4人もさらにたくましく成長を遂げていることだろう。それぞれに課せられた困難を経て、再び5人で集まったとき、初めて「全部無駄じゃなかった」と心の底から思えるのではないか……そう信じている。
■西廣智一(にしびろともかず)Twitter(@tomikyu)
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。