2ndアルバム『僕が歌う理由』インタビュー
海蔵亮太×とおるすが語り合う、それぞれの“歌い続ける理由” 「誰かを笑顔にするために何かをすることが原動力」
女優・大竹しのぶとのデュエット曲「ありがとうって気づいていてね」が話題を集めた歌手・海蔵亮太が2月17日、2ndアルバム『僕が歌う理由(わけ)』をリリース。同作には昨年のシングル「素敵な人よ」をはじめ、aoiroのメンバーがコーラスに参加した「Everyday Heroes」(Album ver.)、NiziUの「Make you happy」のアカペラカバー、サム・スミスの「ステイ・ウィズ・ミー 〜そばにいてほしい」の日本語カバーも収録するなど、海蔵の多彩な歌声が楽しめる作品になった。今回は「Make you happy」のアカペラアレンジを手がけた“とおるす”を迎え、制作の裏側やアカペラの魅力、歌に対する思いなどを聞いた。(榑林史章)
バラードを歌っているイメージとギャップに驚いた
ーーどういうきっかけで、「Make you happy」のアカペラアレンジをとおるすさんにお願いすることになったのですか?
海蔵亮太(以下、海蔵):昨今の状況でYouTubeを見る時間が増えて、いろんな動画を見ている中でとおるすさんのチャンネルを見つけたんです。とおるすさんのチャンネルでは、いろんな方をゲストに迎えながらステキなアカペラ動画をたくさん上げていて。僕も大学生の時にアカペラサークルに所属していたので、当時の青春時代を思い出すような感じで「ステキだな」と思って見ていました。それで今回のアルバムに「Make you happy」のカバーを収録することが決まった時に、学生時代アカペラサークルで感じたワクワクやキラキラ感を思い出して、アカペラでカバーしてみたいと思って。とおるすさんにアカペラのアレンジをお願いしたくて、スタッフを通じて連絡を取らせていただいたのがきっかけです。
ーーとおるすさんは、海蔵さん側からのオファーに対してどんなふうに思いましたか?
とおるす:シンプルに嬉しかったです。それに海蔵さんのことは、けっこう前から知っていたんですよ。大学時代に名古屋のアカペラサークルで活躍されていたので、アカペラサークル界隈ではけっこう有名なんです。
海蔵:僕、大学時代から活躍していたんです(笑)! とおるすさんが所属していたのは関東でも屈指のサークルで、ゴリゴリに厳しいことで有名で。でも僕がいたサークルはホンワカした感じで活動していたので、イベントなどで交わることはほとんど無かったんですけど、サークル名を聞いたら「あのサークルの出身だから、こんなに素晴らしいアレンジが出来ちゃうんだな」って、腑に落ちた記憶があります。
ーーアカペラサークル業界は意外と狭かったと。
とおるす:狭かったですね(笑)。
海蔵:めちゃめちゃ狭いですよ。アカペラの市場規模自体、かなり限られているので、誰かがどこかで活躍すると一気に名前が広まるんです。
ーーとおるすさんは、どちらのサークルご出身なんですか?
とおるす:早稲田のSCS(早稲田大学 Street Corner Symphony)です。ゴスペラーズさんの後輩にあたります。
海蔵:そう聞けば、「ああ、なるほどね」って思いますよね(笑)。
ーーこれまでにもいろんな方の楽曲を手がけていたりするんですか?
とおるす:いえ、まだ昨年作曲家デビューしたばかりなので。ゴスペラーズさんのアルバム『アカペラ2』に収録の「I Want You」と、「誰かのシャツ」を村上てつやさんとの共作で、作曲編曲(「誰かのシャツ」は共作編曲)で参加させていただきました。たまたまお会いする機会があった時に、デモテープをお渡ししたら、しばらくして声をかけてくださって。
海蔵:夢があるお話だと思いませんか? きっとデモテープを渡す人は山ほどいて、聴いてもらえない方のほうが多いと思うので。
ーー巡り合わせもあるんでしょうね。お話を戻しまして、お二人は初めて会った時はどんな印象でしたか?
海蔵:最初はリモートでしたけど、イメージ通りの優しい方でした。それに動画は横顔ばかりだったので、初めて真正面からお顔を拝見して感動しました。
とおるす:また適当なことを言って(笑)。僕はけっこう驚きました。歌っている姿をテレビで見て、きっとクールな方なんだろうと思っていたし。海蔵さんの歌声は、エッジを効かすとかではなく真っ直ぐに声を出して綺麗に歌を届けているという印象だったので、きっとすごく冷静で落ち着いた方なのだろうと勝手に想像していて。実際は気さくで楽しくて、とても話しやすかったです。
ーーリモートの打ち合わせでは、どんなお話を?
海蔵:僕は世間話から入りたいタイプなんですけど、先にとおるすさんから「海蔵さんって音域はどこまで出ますか?」って、いきなり仕事の話を切り出されました(笑)。「下のミは出ますか」とか。僕からもこういうアレンジにしたいとか、こういう不安要素があるとか率直なお話もさせていただいて。
最大11人の海蔵で奏でる「Make you happy」アカペラバージョン
ーー海蔵さんは韓国のSiwooさんとのコラボで、「Make you happy」のカバーを昨年YouTubeに公開していて。ユーモアたっぷりのバージョンなんですけど、とおるすさんはそれもご覧になっていて?
とおるす:拝見しました。打ち合わせの後に見たんですけど、すごいなって。真面目そうな印象だったけど、ぜんぜん真面目じゃないじゃんって(笑)。
海蔵:あれはあれで真面目なんですよ(笑)。打ち合わせ後にあれを見られたと思うと、ちょっと恥ずかしいです。もっといっぱい真面目な動画がほかにもあったはずなのにな。でも僕のいろんな面を知ってもらえたのは嬉しいです。
ーーアレンジをする時は、それこそいろんな面というか、相手の人となりを知ることも重要だったりしますか?
とおるす:オリジナル曲ならそういうところまで掘り下げる必要があると思いますけど、カバー曲は原曲のイメージありきなので、それをいかに自分の色に塗り替えてもらうかというほうを重視しますね。今回のアレンジで言うと、アカペラにするという時点で海蔵さんの色が濃く出ていますし、その上で海蔵さんのユニークなところを押し出して、少しクスッとできるような仕掛けを入れようと思いました。例えば最後に自分の名前を囁くとか、Aメロに女の子っぽいニュアンスで歌うところが出てくるところとか。お茶目でチャーミングな部分が出せたらなって思いましたね。
海蔵:とおるすさんのデモを聴いた時は、もうワクワクが止まらなくて最高でした。こうやって歌えばいいんだということがはっきりと分かるデモだったし、僕らしさもあって嬉しかったです。
とおるす:ありがとうございます。送った時は不安だったんですけど、海蔵さんが歌ったことで僕のデモよりも数段キラキラが増していて、すごいなって思いました。
ーーアカペラは何人かでハモるわけで、その人数によって考える部分もあると思います。海蔵さんはお一人というところで、何声にしようと?
とおるす:人数の希望とかライブで再現する必要があるかなど伺ったら、自由にやっていいということだったので……。5人になるところもあれば8人になるところもあって、曲中でどんどん変わっていくアレンジを考えました。
ーー最大で何人になるんですか?
海蔵:たしか11人くらいだったんじゃないかと。
とおるす:レコーディングは相当大変だったと思います。
海蔵:はい。いい勉強をさせていただきました(笑)。時間はすごくかかりましたけど、楽しかったです。学生の時の記憶が思い起こされながら歌えたし、最後には達成感も味わえました。声がどんどん積み重なっていくのがアカペラの醍醐味で、一つの音楽をゼロから生み出していくようなプロセスが、アカペラで曲を作る上での一番楽しいところです。だからすごく幸せな時間でもありました。
ーーベースのパートをやるのは初挑戦だったそうですが。
海蔵:はい。学生時代はやらせてもらえなかったので。
とおるす:でもすごく上手かったですよ。アカペラのパート分けは声のキーで決まるんですけど、下のミが出る男性は半分もいない。でも海蔵さんは、見事に良い音色で出せていました。グルーヴがすごく良くて、それにも驚きました。ベースはアレンジの基礎となるすごく大事なパートで、海蔵さんはその音が出るどころか、うねるようなグルーヴがあって「ほぉ〜」って感心しました。朝イチで録ったんですよね?
海蔵:そうです。高い音を出した後だと低い音が出づらくなるので、低い声が一番でやすい時間に録りました。
とおるす:人間は寝起きが一番低い声が出るんです。
ーー今後ライブでやる場合は、どうするんですか?
海蔵:令和の時代ですから、やりようはいくらでもあります。コーラスの方に僕の顔のお面を付けて出てもらうとか(笑)。
とおるす:その時はぜひ声をかけてください。
海蔵:いや、とおるすさんはお面付けなくて大丈夫ですよ。
ーーそんな「Make you happy」のカバーも収録した2ndアルバム『僕が歌う理由(わけ)』ですが、海蔵さんの歌心が存分に表現されているなと思いました。サム・スミスのカバーも収録していたりしますし。
海蔵:昨年はおうちで過ごすことも多くて、いろんな音楽を聴いたんですけど、そこで思ったのはどんなジャンルでも音楽は自由なんだということです。その気持ちを還元できたらいいなと思ってこのアルバムを作りました。そういう意味では、いろんなジャンルに挑戦している海蔵を聴きつつ、僕自身が自由に楽しく歌っているなということを感じていただけたら嬉しいです。
ーー「コトバの花束」という曲はウェディングソングとのことで、どういうきっかけで作ろうと?
海蔵:僕は30歳なんですが、周りがどんどん結婚して披露宴に行く機会がすごく増えたんです。思い出のビデオが上映されたり両親への手紙を読んだりしているのを見て、それぞれの家族の物語を感じて毎回感動して帰るんですね。そういう気持ちを歌にしたいと思って作りました。