ヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。……最新作で提示された固有のアーティスト性 2組の現在地と不変の美学を読み解く
ネット発祥の音楽ユニット・ヨルシカとずっと真夜中でいいのに。がこの夏に新作をリリース。匿名性の高さ、ライブの少なさ、女性ボーカルなど共通点も多い2組だが音楽性は別次元の個性を持つ。本稿では2組の最新作から両グループの現在地を読み解いていきたい。
ずっと真夜中でいいのに。(以下、ずとまよ)は、8月5日に新EP『朗らかな皮膚とて不服』をリリース。シンガーソングライターACAねが率いるずとまよは、その実態が謎に包まれている。ミステリアスなイメージと直結する不可思議な言語感覚を含んだ歌詞。鋭さと甘さを兼ね備えた歌声。この2つを掛け合わせて心地よく転がすメロディとビビッドなサウンドでリスナーの耳を掴んできた。楽曲ごとにタイプの違う編曲家を登用するのも印象的だ。ボカロP、アニメソングの作曲家、ロックバンド界隈で活躍するアレンジャーらを的確にキャスティングし、変幻自在なポップナンバーたちを洗練させている。
ずとまよには、さながら真夜中の独り言とも形容できそうな歌が多い。謎めいた存在である彼女たちが多くのリスナーに共感を広げたのは、ありふれた思い悩みをつらつらと述べる平熱な生活感も要因の1つだろう。思考の逡巡がそのまま言葉遊びに成り変わったような素っ頓狂な語感とそこに息づくリアルな心情。今回の新作ではその巧みなバランス感を引き継ぎつつ、より外世界へと踏み出した言葉が増えたように思う。
「低血ボルト」には苛立ちと決意表明が漲っており、ACAねが抱える心境の写し鏡として聴こえる。「Ham」のように、誰かを思い焦がれる楽曲は今までもあったが〈生きていけるよ 君をさがして〉という強い言葉で締めくくられるものは少なかったはず。極めつけは〈変わってゆくから 私ねもっと ねぇ、見届けて 欲しがりでも〉と聴衆へメッセージを届ける「MILABO」。コロナ禍がずとまよに変化をもたらしたかは定かではないが、新作で次のフェーズへと向かったのは明らかであり、よりリアルな手触りを持つ音楽を創出している。