Juice=Juice 宮本佳林は、光と影を内に抱える少女だったーー卒業公演とともに振り返る“アイドル人生”
コンサートが進むにつれ、メンバーのボルテージはますます上がってくる。「CHOICE & CHANCE」では間奏パートで井上がボイスパーカッションを豪快に決め、それに合わせて歌うメンバーとの間に新たなグルーヴを生み出していた。
宮本はソロ名義の新曲「未来のフィラメント」も披露。昨年、発表したソロ曲「どうして僕らにはやる気がないのか」とも意匠の異なる浮遊感のあるナンバーで、歌手としての新境地をアピールした。また宮本を除いた8人も新曲バラード「がんばれないよ」を熱唱し、これから始まる新体制でも前を向いて進み続けると歌を通じて主張していた。
「後輩たちの成長した姿を見て卒業することを決めました」とはアイドルが卒業するときによく出る言葉。たしかに今のJuice=Juiceは宮本抜きでも十分に成立するだろう。残されたメンバー、特に後輩たちは宮本から多くのことを学んだはずだ。グループの未来は明るい。
後半戦は「微炭酸」を皮切りに、インディーズデビュー曲「私が言う前に抱きしめなきゃね」、メジャーデビュー曲「ロマンスの途中」、ソウルフルな魅力が凝縮された「生まれたてのBaby Love」などを矢継ぎ早にパフォーマンス。本編ラストは「泣いていいよ」を情感たっぷりに歌い上げ、充実感みなぎる表情のままメンバーはステージを去った。
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『Wonderful World/Ça va ? Ça va ?』で初めてのオリコン週間チャート1位獲得、架空のグループ・NEXT YOUを演じたドラマ『武道館』(フジテレビ系/宮本は主人公・日高愛子役)、大盛況に終わった初の海外単独公演、怒涛の225公演を完走した全国ツアー『Juice=Juice LIVE MISSION 220』、そして念願の武道館公演……5人体制のグループは着実にステップアップしていった。結成当時は“ハロプロの妹分“としてフレッシュな魅力を振りまいていたメンバーも、タフなツアーを繰り返すことで地力が備わってくる。ボイトレを菅井秀憲氏が担当するようになったことも、グループのパフォーマンス力向上に大きく寄与したようだ。
そんな中、宮本の言動にも変化が生じていく。取材で会うたびに「最近、キックボクシングに通っているんですよ」「DTMを始めて気づきましたけど、やっぱりビートルズって改めて天才ですね」といった調子で近況報告してくれる宮本。趣味がすべてアイドル活動に直結しているという点はストイシズム全開なままだが、その口調からはどこか肩の力が抜けたような柔らかさも感じられる。ライブのMCでも自虐エピソードを披露するなど、本来持っていたコミカルな面がファンからも注目され始めた。
思えば2017年から18年にかけては機能性発声障害や突発性難聴によって戦線離脱を余儀なくされたが、おそらくこれも精神的なことが関係あったのだろう。ある意味、ここで「考えたところで仕方ない」と開き直るようになったのかもしれない。あるいは17年以降、グループの後輩メンバーが加わるようになったことで、先輩としての度量や人間的な余裕が生じたのかもしれない。いずれにせよ、このあたりで人間的に一皮剥けたことは間違いない。そして“アイドル・宮本佳林”が完成形に近づいたからこそ……皮肉なことに“卒業”という選択肢が現実味を帯びてくるのである。
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「ありがとうの気持ちを言葉で伝えるのが恥ずかしいから、パフォーマンスで伝えるなんて普段は言っていますが……今日は言葉でも言わせてください。こんな私を応援してくれているJuice=Juice Familyのみなさん、本当にありがとうございます! そしてこんな変な私を理解して居場所をくれたメンバーのみんなも本当にありがとう! このライブが終わったら、宮本佳林として新しい一歩を踏み出して、人間もパフォーマンスも磨いていきます! Juice=Juiceの宮本佳林を愛してくれて、ありがとうございました!」
アンコール明け、頭にティアラを乗せドレス姿で登場した宮本は「続いていくSTORY」を歌いつつ、曲間にメッセージを挟み込む。感動的な雰囲気に包まれたまま、ラストスパートは「Magic of Love」からの「Wonderful World」。メンバーの中には涙を流す者もいたが、この日の主役・宮本は最後まで笑顔のままステージを降りた。100点満点のラストライブである。
終演後、私は宮本に「今日はすごくカッコよかったです。今まで本当にいろいろお世話になりました」と感謝の気持ちを伝えた。すると宮本は「いやいや、そうじゃないですよね~」とはにかみながら、「これからもよろしくお願いします!」と笑顔で続けた。たしかにそうなのだ。ソロ歌手としての歩みはここから始まるのだから、私も過去形で語るべきではなかった。なにしろグループを卒業するとはいえ、宮本の“革命”はまだまだ道半ば。きっと宮本なら、グループ時代とはまた違う素敵な光景を私たちに届けてくれることだろう。ソロアーティスト・宮本佳林を心から応援したいと思う。
■小野田衛
おのだ・まもる◎出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆を行っている。ハロプロメンバーへの取材も多数。著書に「韓流エンタメ日本侵攻戦略」(扶桑社新書)、「アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実」(竹書房)がある。芸能以外の得意ジャンルは貧困問題、サウナ、プロレス、フィギュアスケート。