Gorillazらしい試みで世界に示した音楽の力 豪華ゲストも多数出演した『SONG MACHINE LIVE』Performance 1レポ

Gorillaz『SONG MACHINE LIVE』レポ

 12月12日から14日にかけて、Gorillazがオンラインライブ『SONG MACHINE LIVE』を開催した。これは3日間に渡り、世界の3つのタイムゾーンで、3つのパフォーマンスをロンドンから生配信するというもので、最新作『Song Machine:Season One – Strange Timez』に参加した豪華ゲストも多数出演。2020年は世界中で通常のライブの開催が困難となり、バーチャルでの表現方法が模索された一年となったが、Gorillazは20年前からリアルとバーチャルの境界線を跨いで活動を続けてきたバンドであり、この領域での先駆者であることを証明する、貫録十分のライブだった。ここでは12日の日本時間20時から、アジア/オーストラリア/ニュージーランド向けのタイムゾーンで開催されたPerformance 1のレポートをお届けする。

 Gorillazの活動拠点であるThe Kong Studioの中にはステージセットが組まれ、デーモン・アルバーンを筆頭に、Gorillazプロジェクトにはもはや不可欠な存在となったパーカッションのレミ・カバカJr.、ギターのジェフ・ウートン、Ezra Collectiveでも活動するドラムのフェミ・コレオソ、6人のコーラス隊など、計14人のメンバーが集結。後方のスクリーンにはミュージックビデオなどの映像が映し出され、さらには3DCGでマードック、2-D、ヌードル、ラッセルの4人が随所に登場するなど、賑やかな演出とともにライブが進行していった。

 セットリストは基本『Song Machine:Season One – Strange Timez』の曲順通り進み、「Song Machine:Strange Timez」ではThe Cureのロバート・スミスがモノリスのような縦型の物体の中に現れ、「The Valley of the Pagans」ではファンキーな曲調に合わせてダンスをするベックがARで登場したりと、序盤から実に華やか。ともに90年代から活動するベックとデーモンの共演は、バーチャルとはいえ非常に感慨深いシーンだった。

 「The Lost Chord」では最初のゲスト、Leee Johnが華麗にステップを踏みながら登場し、美しいファルセットを響かせる。Schoolboy Qをフィーチャーした「Pac-Man」まではアルバムの曲順通りだったが、次の「MLS」で日本から唯一の参加となったCHAIが映像で登場。いかにもCHAIらしい、ゆるいダンスを披露した。SUB POPとの契約や、「Plastic Love」のカバーなど、今年もグローバルに話題を振りまいたCHAIだが、デーモンはかつてBlurでCorneliusにいち早くリミックスを依頼するなど、以前から世界の音楽シーンをフラットに見つめていて、その目線はGorillazにも間違いなく反映されている。

 御大エルトン・ジョンがアニメで登場した「The Pink Phantom」、EARTHGANGが盛り上げたダンサブルな「Opium」に続いて、「Aries」ではNew Orderのピーター・フックとジョージアがゲスト参加。ロバート・スミス同様、80年代から活動を続けるレジェンドの参加だけでも豪華だが、「BBC Sound of 2020」にノミネートされ、1月に発表されたアルバム『Seeking Thrills』も素晴らしかったジョージアは、90年代に活躍したエレクトロニックデュオLeftfieldのニール・バーンズを父に持つ、いわばNew Orderの孫世代。金物とパッドを組み合わせたドラムセットでピーター・フックと共演する姿は、世代を超えたUKクラブシーンの共鳴だったと言える。

 ラッパーのKanoが参加した「Dead Butterflies」、マリのシンガーソングライターであるFatoumata DiawaraがARで映し出され、3DCGでヌードルとラッセルの演奏も加わった「Desole」に続き、「Momentary Bliss」ではSlavesのローリー・ヴィンセントと、ラッパーのスロウタイが登場。いかにもUKらしいスカパンクな曲調に合わせ、この日のゲストの中では最も若い部類に入る20代半ばのスロウタイがやんちゃに暴れ回る姿は、まるでブリットポップ時代のデーモンのようであり、中盤のハイライトとなった。

 ほぼ曲順通りに『Song Machine:Season One – Strange Timez』からの11曲を終えると、俳優/ミュージシャンのマット・ベリーがサプライズで登場し、「Fire Coming Out of the Monkey’s Head」でオリジナルのデニス・ホッパーに代わって、ポエトリーリーディングを披露。それを後ろで見ていたデーモンがおもちゃの銃でふざけながら場所を移動すると、そこはクリスマスツリーの飾られた部屋のような雰囲気のセットで、いつの間にかバンドメンバーが待ち構えている。ミニマムなアレンジで「Last Living Souls」や「Dracula」といった過去曲を演奏し、「Don’t Get Lost In Heaven」~「Demon Days」ではコーラス隊によるゴスペルがフィーチャーされ、12月らしいムードが作り出される。

 その場に一人残されたデーモンがオムニコードを触り出すと、始まったのは初期の名曲「Clint Eastwood」。ファンの多いこの曲を1コーラス歌い終え、画面が再びライブステージに切り替わると、レゲエシンガーのSweetie Irieが登場し、「Clint Eastwood」がダンスホール風のリミックスへと変化する。そこにデーモンも加わり、メンバーとともに派手なパフォーマンスで盛り上げ、最後も賑やかなパーティーモードでライブが終了した。

 「Song Machine」というプロジェクトが1月にスロウタイとSlavesをフィーチャーしたパンキッシュな「Momentary Bliss」でスタートした際、おそらくデーモンは怒っていた。それはやはりブレグジットに伴うものであり、「Momentary Bliss」のリリースはイギリスのEU離脱とタイミングを合わせたものであった。しかし、その後に世界はさらなる混沌を迎え、「Song Machine」にも少なくない影響を与えたはず。そこでデーモンが選んだのは、これまでGorillazがやってきたことをさらに推し進めることであり、それはつまり、アフリカやアジアを含む世界中のアーティストを繋ぎ合わせるということだった。

 Schoolboy Qが参加した「Pac-Man」にはBLMに対するメッセージも含まれているし、今もデーモンはイギリス政府の文化・芸術に対する無理解に相当不満を持っていることが伝わってきてもいる。それでも、Gorillazはこの奇妙な時代にパーティーを続けることで、音楽の力を示そうとした。だからこそ、わざわざ3つのタイムゾーンに分けて、各地域へと丁寧にアプローチをしたのだ。あくまでもエンターテインメント。しかし、そこに明確な思想も忍ばせる、実にデーモン・アルバーンらしい試みだったように思う。

■作品情報
『Song Machine: Season One - Strange Timez / ソング・マシーン:シーズン1 − ストレンジ・タイムズ』
価格:¥2,600(税抜)
【収録曲】
1. Strange Timez (feat. Robert Smith)
2. The Valley of The Pagans (feat. Beck)
3. The Lost Chord (feat. Leee John)  
4. Pac-Man (feat. ScHoolboy Q)
5. Chalk Tablet Towers (feat. St Vincent)
6. The Pink Phantom (feat. Elton John and 6LACK)
7. Aries (feat. Peter Hook and Georgia)
8. Friday 13th (feat. Octavian)
9. Dead Butterflies (feat. Kano and Roxani Arias)
10. Désolé (feat. Fatoumata Diawara) [Extended Version]
11. Momentary Bliss (feat. Slowthai and Slaves)
12. Opium (feat. EARTHGANG)
13. Simplicity (feat. Joan As Police Woman)
14. Severed Head (feat. Goldlink and Unknown Mortal Orchestra)
15. With Love To An Ex (feat Moonchild Sanelly)
16. MLS (feat. JPEGMAFIA and CHAI)
17. How Far? (feat. Tony Allen and Skepta)
*18.  Taxi back to 80s Reykjavík
*日本盤CDのみのボーナストラック

Gorillaz 公式グッズ(Warner Music Direct)
Gorillaz Warner Music Japan アーティストページ

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