パスピエが自身のキャリアを再構築・アップデートした最新形 新アルバム『synonym』に感じる音楽へのピュアな願い
“synonym(シノニム)”は、同義語、類義語を意味する言葉。状況がどんなに変化し、既存の価値観が崩れたとしても、自分たちがやるべきこと、やりたいことは変わらないーーパスピエのニューアルバム『synonym』には、そんな静かな決意が伝わってくる。
前作『more humor』から約1年5カ月ぶりの6thフルアルバム『synonym』。「まだら」(MBSドラマ特区『ホームルーム』)、「真昼の夜」(ロート製薬“Z!”ブランド キャンペーン「ロートジー デジタル MV フェス」コラボレーションソング)、先行配信シングル「SYNTHESIZE」「Q.」などを収めた本作には、10年を超える活動のなかでパスピエが培ってきた表現、そして、この先の新たな可能性が漲る充実作だ。
まず印象に残るのは、それぞれの楽曲に施された音楽的意匠の多様性と奥深さ、そして、2020年の現状をリリカルに反映した歌詞だ。アルバムのオープニングを飾る「まだら」は、現行のオルタナR&Bの流れを汲むミディアムチューン。独特の“訛り”を感じさせるトラック(スネア、キックの位置の微妙な変化が気持ちいい)、ブラックミュージックとJ−POPが交差するようなメロディのバランスも絶妙だ。
3曲目の「現代」は、フュージョンジャズ的なエッセンスを軸にしたアッパーチューン。緻密に組み立てられたアレンジ、卓越した演奏力に貫かれたアンサンブルを含め、パスピエの音楽的なポテンシャルの高さを改めて示す楽曲だと言っていいだろう。〈うつろな変わり目を 責めずにいられたなら これからを何度すごせたのかな 誰も知らない〉という歌詞は、明らかに今の現状をトレースしたものだと思う。
そのほか、構築美を感じさせるメロディライン、音の響きを活かしたリリック、大胡田なつき(Vo)の凛としたボーカルが共鳴する「SYNTHESIZE」、初期の名曲の一つである「最終電車」の雰囲気を想起させるポップチューン「プラットホーム」、“歌詞、構成ともに回文構造”という楽曲「oto」など、独創的にしてポップな楽曲が並ぶ。高い音楽理論と奔放なアイデアを合成させた成田ハネダ(Key)の楽曲、言葉遊びと文学的な深みを共存させた大胡田の歌詞、そして、卓越したテクニックと色彩豊かな表現力をあわせ持った演奏によるパスピエのケミストリーは、本作においてさらなる発展を遂げている。