パスピエが自身のキャリアを再構築・アップデートした最新形 新アルバム『synonym』に感じる音楽へのピュアな願い
昨年、結成10周年を迎えたパスピエは、デビュー以来、様々な音楽的トライアルを続けてきた。“ドビュッシーに代表される印象派の音楽と80年代のニューウェイブやテクノポップ、00年代のロックなどを融合させる”というコンセプトで始まったパスピエ。その後、フェス文化に適応するために徐々にライブバンドとしての存在感を強め、「MATATABISTEP」「S.S」などのアンセムを生み出し、バンドシーンでの確固たるポジションを得た。
2017年にドラマー・やおたくやが脱退した後は、ドラマーの不在という事態を肯定的に捉え、様々なリズムアプローチにトライ。『OTONARIさん』(2017年)『ネオンと虎』(2018年)という2作のミニアルバムでは打ち込みによる楽曲も採用され、5thアルバム『more humor』では海外のR&B、ヒップホップにも通じるサウンドメイクを取り入れるなど、その作風は大きく広がった。つまり、バンドの状況やシーンの変化に対応しながら、自らの音楽性を果敢に変革させてきた、というわけだ。
ニューアルバム『synonym』には前述した通り、様々なアプローチの楽曲が収録されているが、それはすべて10年間の活動の中で獲得してきたメソッドが源になっている。これまでに培ってきた方法論やスタイルを一つ一つ研ぎ澄ませ、2020年のポップミュージックとしてアップデートさせる。それこそが、このアルバムの核心だと思う。表面的な派手さを抑え、洗練されたアンサンブルやメロディの起伏で内なる躍動感を演出する楽曲構成、そして、心地よい中・低域の響きを活かしたサウンドメイクも本作の魅力。その根底にあるのは、ライブやイベントが思うように開催できない現実を踏まえ、“個々のリスニングに適した音楽を届けたい”という意識だと思う。
そう、アルバム『synonym』の軸になっているのは、“リスナーに音楽を楽しんでほしい”という驚くほどピュアな願いだ。メンバー自身の創作に対する欲求、気持ち良く演奏したいという衝動だけではなく、あくまでも聴き手の立場に立ちながら音楽を創造する。それこそがパスピエの原動力であり、このアルバムの魅力の源泉なのだと思う。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。