「I LOVE...」カバーインタビュー
Crystal Kay、ヒゲダン「I LOVE...」など楽曲カバーで得た新たな発見 20周年迎えた今後のビジョンも語る
今年3月にレミオロメン「3月9日」、8月に斉藤和義「歌うたいのバラッド」のカバーを発表したCrystal Kayが、キャリア初となるカバーアルバムから第三弾先行配信シングルとしてOfficial髭男dismのヒット曲をカバーした「I Love…」をリリースした。彼女は今回、高揚感あふれるヒゲダンの楽曲をスローテンポでしっとりとアレンジ。クリスマスを思わせるベルの音色と高雅なストリングス、そして彼女の力強く美しいソウルボイスが織りなすウィンターソング風味の逸品に仕上がった。デビューから20年。彼女は何故このタイミングでカバーアルバムを作ることにしたのか。男性ボーカルの楽曲をカバーして気づいたことや、美声をキープしている秘訣、さらに20周年を経て見据える今後のビジョンを語ってもらった。(猪又孝)
デビュー20周年の“特別な機会”だからこそ実現したカバー企画
ーー今年3月に「3月9日」を発表した際、同時にカバーアルバムのリリースもアナウンスされていました。そもそもカバーアルバムはどのような経緯から作ることになったんですか?
Crystal Kay:私はカバーに対して、よほど特別な機会じゃない限り、やりたくないと思っていたんです。テレビの音楽番組とかは別として、音源作品としては意味があるタイミングじゃないと作らないとずっとスタッフにも言っていて。過去にマイケル・ジャクソンの「Happy」だけ、2010年6月に出したアルバム『FLASH』で追悼の思いを込めてカバーしたんです。マイケルは私がシンガーを目指した大きな理由のひとつだし、永遠の憧れだから。
ーーそのスタンスが変わるきっかけがあったんですか?
Crystal Kay:アコースティック編成ライブのクリカフェ(『Crystal café』)で、アニソンメドレーとか邦楽カバーメドレーをやるのが恒例になってきて。ライブに来てくれる方の世代を考えつつ、自分が子どもの頃に聞いていた曲も織り交ぜながら、どんな曲を歌うのかサプライズしたい気持ちでやっていたんです。それをやると、みんな知ってる、みんな歌える、みんなサプライズに応えてくれるっていうことで盛り上がるんですよ。それにいつも「もっとクリにカバーを歌って欲しい」みたいな反響があって。この感じを作品にしたら面白いんだろうなぁと思うようになっていったんです。
ーーそこにデビュー20周年という“特別な機会”がやってきた。
Crystal Kay:まさにそう。20周年だし、ここでカバー作品をやってみてもいいんじゃないかって。
ーーということは、20周年を迎えた去年7月の時点で、今回のアルバムのプランはあったんですか?
Crystal Kay:ありました。そこからゆっくり作り始めたんだけど、コロナ禍で制作がさらに遅れて。でも、時間があったぶん、逆にめちゃくちゃじっくり作れて、すごく良かったと思っています。
ーーまずは曲選びから取りかかったんでしょうか。
Crystal Kay:そうです。「カバーアルバムと言ってもどこから始めようか?」っていうくらいざっくりとしていたから、まずは何を歌おう? っていうことになって。
ーー世の中に曲は無限にあるし。
Crystal Kay:本当にいっぱいあるから、洋楽なのか、邦楽なのかっていうところもあるし。で、一旦スタッフと話して、洋楽じゃないねっていうことになり。でも、聞いてもらうのはファンの方だから、SNSで問いかけちゃえと思って、「私がカバーアルバムを出すとしたら、何を歌って欲しい?」って聞いてみたんです。そしたらブワーッと送られて来て(笑)。
ーーそれはそれで選ぶのが大変っていう(笑)。
Crystal Kay:そう(笑)。全然、曲がバラバラで。ただ、カバーアルバムを作るんだったら、どういう人たちに聞いてもらいたいかっていうこともしっかり考えたかった。自分のファン層を考えると30代~40代っていうのがベースにあるけど、その世代に向けた曲だけを選んでいくと、今の10代、20代は知らない曲がほとんどになる。
ーー自分が子どもの頃に聞いていた曲も90年代とか80年代になりますしね。
Crystal Kay:そうなんです。それだけだとすごく狭まっちゃう。でも、なるべく多くの人に楽しんでもらえるカバーアルバムにしたいから、今度は事務所やレコード会社の社員さんたちに「どの曲がいい?」って、またアンケートを採って(笑)。そこで挙がってきた曲も入れてリストアップしていったんです。でも、今度は「良い曲はいっぱいあるけど、私の声を乗せてみないとわからなくない?」となって。じゃあ、スタジオに入って1ヴァースずつ全部歌ってみようと。
ーーその時点で何曲くらい候補があったんですか?
Crystal Kay:たぶん100曲はあったと思う(笑)。
ーー試していくだけでも大変だ(笑)。
Crystal Kay:でも、試していくと、面白いことに良い曲でも私に全然合わない曲もあるし、逆に「コレ、意外とめっちゃいいじゃん」みたいな発見もいっぱいあって。そこから今回の曲を選んでいったんです。
オリジナルをリスペクトしつつ、歌を聞かせるアレンジに
ーー最新シングル「I Love…」は、Official髭男dismが今年2月に発売した楽曲です。カバーのタイミングがすごく早いですね。
Crystal Kay:最近の曲も入れたかったんです。やっぱりフレッシュさが欲しいから。さっき言ったように、今の10代や20代が知ってる曲を入れたかったし、私も今の曲を歌いたかったし。そう考えたときにヒゲダンの「I Love…」はめちゃくちゃ良い曲だし、ヒゲダン自体すごくいいバンドだし、カバーしたいなって。
ーー彼らの音楽性にどのような魅力を感じていますか?
Crystal Kay:まずヒゲダン(ボーカル藤原聡)は歌がめっちゃ上手い。あと、J-POPなんだけどR&B色が強いですよね。他の曲を聞いてもそうなんだけど、ブラックミュージックが好きなんだろうなって。あと、歌詞もすごく耳に入ってくるし、曲自体すごく上手く作られてる。でもただ上手く作られてるだけじゃなくて、めちゃくちゃキャッチーな曲を作るバンドだなっていう印象でした。
ーー「I Love…」のアレンジはどのような方向で考えていったんですか?
Crystal Kay:オリジナルがめちゃくちゃいい曲だし、イントロからインパクトがあるから、もうガラッと変えて勝負しようと思ったんです。リリースする季節も考えて、今の世の中の状況やこの曲が持っている温かさも考えたときに、スローにしたら良くない? って。それでテンポとキーをいろいろ試しながらピアノと私だけでデモを何パターンか作ってみたんです。そしたら今回のバージョンがすごく良くて。ちゃんと「I Love…」なんだけど、私のフレイバーや良いところがちゃんと出せていて、また違う曲にも聞こえるなって。
ーーベルの音が印象的なホリデーシーズンにぴったりのサウンドになっていますね。
Crystal Kay:「ホリデーI Love…」ですね(笑)。アレンジは川口大輔さん。本当にいいアレンジにしてくださって嬉しかったです。
ーー原曲はソウル/ポップス/ファンク/ゴスペル/EDMなど、様々なエッセンスが盛り込まれた賑やかな曲ですが、今回は音数をグッと減らしています。
Crystal Kay:オリジナルは音数が多いから、逆に少なくしようと。今回のアルバムで大切にしたのはオリジナルをリスペクトすること。プラス、私の曲にすること。そのために歌詞とメロディと私の声をちゃんと聞かせたかったから、今回のアルバムは全体的に音数を少なめにしてるんです。もしくは生音にするか。それがリリースを控えているカバーアルバムのポイントになっていますね。
ーー確かに「3月9日」にしても「歌うたいのバラッド」にしても音数は非常に少ないですね。歌で聴かせるアレンジという印象を受けました。
Crystal Kay:ありがとうございます。やっぱり私の歌を聞いて欲しいから。そもそも普段から音数はそんなに要らないと思ってるんです。良い曲はロックバージョンにもできるし、アコースティックバージョンにもできる。ピアノとギターと歌で成立しちゃうんですよね。
ーー今回、3曲をカバーしてみて気づいたことは?
Crystal Kay:男性目線の曲が合うなと思いました。歌詞が男臭い感じというのかな。私は声が切ないから、そこで何か良い化学反応が起きるんだと思う。ヒゲダンはピュアな男の子目線だけど、「歌うたいのバラッド」とか「3月9日」とか、ロックの男臭い感じが合うのかもって。
ーーチルな方向のアレンジによるところもあると思いますが、「3月9日」と「歌うたいのバラッド」は原曲にあるノスタルジーやセンチメンタルな感じが温かさやハッピーな感じに変わり、逆に「I Love…」は原曲にあるハッピーさを残しながら、センチメンタルな感じが浮かび上がってくる印象を受けました。Kayさんが歌うと原曲と逆のテイストが引き出されるんだなって。
Crystal Kay:わかります。それはあるかも。「I Love…」は、“あなたは私の目を開かせてくれた存在”といった恋の始まりのワクワク感、ドキドキ感を意識して歌いました。“なんだろ、この気持ち?”ってアンバランスな自分に気づきながらもハッピーっていう。そういう感情を歌で表現しようと思いました。