Crystal Kay、「歌うたいのバラッド」「3月9日」カバーから見えた新鮮な魅力
Crystal Kayが斉藤和義「歌うたいのバラッド」のカバーを配信リリースした。年内リリース予定のカバーアルバムに向けての先行配信である。Crystal KayはR&Bやバラードを得意としているシンガーで技術力の高さを感じるテクニカルな歌唱をする。ウィスパーボイスも使いこなし繊細に歌を表現することも魅力だ。それに対して斉藤和義は声質の良さや独自の歌唱法が印象的なロックミュージシャン。つまり2人は方向性が全く違うシンガーだ。そのため彼女の音楽性から考えると意外な選曲に感じた。
しかしこれがなかなかに相性の良いカバーである。原曲はギターと華やかなストリングスの音が印象的な編曲だが、カバーではR&Bテイストのリズムのドラム音が印象的。ギターの音は控えめでストリングスは使われず音数も少ない。しっとりとCrystal Kayが歌うからこそ魅力が伝わる編曲になっている。
サビでは美しく伸びやかな歌声に惹きつけられる。彼女の声質の良さが最も活きる音が詰め込まれていないメロディである。ジャンルが違うアーティストの楽曲ではあるが、本質部分はCrystal Kayが得意としているバラードで相性が良い。おそらく「歌いたい曲」というだけでなく「意外性がありつつも相性の良い曲」という部分も考えた上での選曲だろう。
3月にはレミオロメン「3月9日」のカバーも配信していた。原曲はバンドサウンドが印象的なロックバラードで、これもCrystal Kayの方向性とは真逆である。しかし聴いてみるとこれも相性が良い。全体的に落ち着いた編曲になっていることで彼女の魅力が引き立つトラックになっている。これも「歌うたいのバラッド」と同様にR&Bを感じるリズムになっており、様々な音を使って洒脱な雰囲気を作り出している。原曲はバンドサウンドだがカバーでは打ち込み。バンドサウンドでなくとも名曲であることを示すような、楽曲の新しい魅力を引き出すトラックになっている。この曲もサビで音を伸ばすメロディが印象的で、これも考え抜いた上での選曲ではないかと思う。
Crystal Kayはオノ・ヨーコやDREAMS COME TRUEなど女性ボーカル曲をカバーすることはあったが、男性アーティストの曲をカバーすることは少ない。それも今回はロックを中心に音楽を作る2組のカバー。R&Bやソウル、ポップスを中心に歌っていた彼女にとって過去になかった新しい挑戦ともいえる。