ムーンライダーズは“現代ロックの道しるべ”であり続ける 満月の夜、活動再開果たした中野サンプラザ公演レポート

 10月31日、ハロウィン。この日が満月になるのは実に46年ぶりのことらしく、巷は賑わっていた。

 我々ムーンライダーズのファンにとっても満月は格別な思いを掻き立てられる日。彼らが無期限の「活動休止宣言」を行ったのは、2011年11月11日の満月の夜だったし、それから5年後の2016年、「活動休止の休止」中に行ったツアーの千秋楽公演の夜も、空には満月(正確には満月の翌日だったが見た目はほぼ満月)が輝いていた。

 ちなみに休止宣言後、最後のホールライブとなった2011年12月17日の公演、そして前述の2016年ツアーの千秋楽公演、いずれも会場は今回と同じ中野サンプラザ。かようにムーンライダーズと満月と中野サンプラザは、ファンにとって激エモい組み合わせなのである。

 1975年の結成以来、日本の音楽シーンの突端を走り続けて、気がつけば「日本最古の現役ロックバンド」と呼ばれる存在になったムーンライダーズ。前述したように2011年以降は活動休止と再開を繰り返しながら今に至るわけだが、結成45周年を前に、今日ここで彼らはまた活動を再開する。

 コロナ禍の折なので、せっかくの有観客ライブも座席設定は一つ飛ばしで収容は半分。今回は配信でも観られると聞いていたものの、上記のような理由で、どうしてもここで生で観たかった。さぞかし競争率が高かったであろうチケットの抽選に当たった時は小躍りして喜んだものだ。

 高鳴る胸で会場に入ると、早速聴き慣れない、しかし確かにムーンライダーズ風味の音楽が流れていて驚いた。なんだこれは!? と、懸命に頭を巡らせたのだがわからず戸惑っていると、鈴木慶一のアナウンスが聞こえて、どうやら書き下ろしらしいということがわかった。なんと嬉しいサプライズ。久しぶりに会うファンに対して「特別なもてなし」をしようという気持ちが伝わってくる。

 6人が登場し、各々のポジションに着いた。万感の思いでその絵面を楽しんでいると、「スイマー」でライブが始まった。いきなり繰り出された疾走感溢れるロックナンバーに会場が沸き立つ。開演前には、感染防止のために声を出さないようにとガイドがあったのだが、歓声がなくても発される「気」の大きさが圧になって伝わってくるのでわかる。のちのMCで白井良明も「歌えない分、お客さんの目力がすごいんだよ」と感心していたが、手拍子や拍手もいつもより大きめな印象だった。

 この日は「ガラスの虹」「ヴァージニティ (Single Version)」「腐った林檎を食う水夫の歌」「悲しいしらせ」「夢ギドラ85’」「ニットキャップマン外伝」「ヤッホーヤッホーナンマイダ」や、長谷川きよしのカバー「卒業」など、これまであまりライブで披露されることのなかったレア曲が多い変わったセットリストだった。8月に配信で行った『カメラ=万年筆』再現ライブともダブりは一切なし。

 活動再開のお祭り気分で、アンセム的楽曲の「スカーレットの誓い」や「BEATITUDE」でファンの結束を強めたり、あるいは「Who’s gonna die first?」や「彼女について知っている二、三の事柄」などアップテンポで景気のいい曲を次々に繰り出す、などという趣向もあったかと思うのだが、セットリストを振り返ってみると“ムード”よりも“意味”にフォーカスして選んだのかな、と感じる選曲だったように思う。

 最初のMCで鈴木慶一が「これが最後になるかも」などとジョークを交えながら活動再開する旨を宣言し、メンバーも代わる代わる軽妙なトークを披露しながらライブは進んでいく。鈴木慶一、白井良明、武川雅寛、鈴木博文の4人が曲に応じてメインボーカルを取る格好だ。

鈴木慶一

 見どころ・聴きどころはいくつもあったと思うが、なかでも個人的にグッときたのは「悲しいしらせ」と「今すぐ君をぶっとばせ」。いずれも2011年12月31日、つまり活動休止時のファンクラブ用ラストライブで演奏された曲だ。「活動休止」時に聴いた曲を、今度は「活動再開」時に、真逆の心持ちで再び聴けるのは感慨深かった。また、「駅は今、朝の中」は「仕事で徹夜して始発電車で帰るときによく口ずさんだなぁ」とか、「Kのトランク」「工場と微笑」といった『マニア・マニエラ』収録曲は「このアルバムを狂ったように聴いていた青春時代がフラッシュバックして甘酸っぱい気持ちになってしまうなぁ」とか、バンドとファンの関係も相当長いので、どうしても曲と自分の来し方を重ねずにはいられない。それでいてノスタルジー一辺倒かというと全然そんなことはなく、ムーンライダーズの演奏を聴いていつも感じるのは、老獪な巧さではなく、むしろ瑞々しさだったりする。それは“整いすぎない音像”と言い換えてもよく、メンバー同士のプレイの応酬は今もってスリリングですらある。もちろん、各々超絶的な技巧を持ったベテランだから、互いの呼吸を窺いながら寄り添ったり絡んだりする妙技も堪能させてくれるけど、誰もアンサンブルを手堅くキレイにまとめようと抑制を利かせているそぶりはない。それよりも彼らは、不調和や粗さ、ズレの中にある刺激、そしてそこから湧き上がるエネルギーこそを愛しているのだと思う。まさに“美は乱調にあり”の体現者。45年もやっているバンドが、こんなにエッジのある音を出せるのは奇跡だ。

 初期の汎世界的なサウンド指向やニューウェイヴなど、時代に先駆けた様々なスタイルを取り入れ、音楽性を自在に変貌させてきたムーンライダーズだが、今も昔も芯の部分にはずっしりと「ロック」が屹立する。つまり、体幹がめちゃくちゃ強い。

 そして、そんな“からだ”の丈夫さとともに、彼らの“スピリット”を秀逸に表わしていたのが、本編最後の「DON’T TRUST ANYONE OVER 30」だ。「聴く純文学」と言ってもいいこの曲は、大人の孤独を恐ろしいほどリアルにえぐり出している名曲なのだが、この日はサビのコーラス〈Don’t trust anyone over 30〉が、現在のメンバーの年齢に合わせて〈Don’t trust anyone over 60〉〈Don’t trust anyone over 70〉と歌詞が変えられており、不良老人たちのウィットにニヤリとさせられた。

 元のフレーズはボブ・ディランが1960年代に発したあまりにも有名な言葉だが、ムーンライダーズはその概念ごとアップデートし、「義憤は若者だけの特権ではない。いくつになっても“抗う心”は大事なのだ」ということをユーモアとともに教えてくれる。