橋本絵莉子から羊文学 塩塚モエカまで……ASIAN KUNG-FU GENERATIONが女性ボーカリストとの共演で見せる新側面
2018年の9thアルバム『ホームタウン』収録の「UCLA」では、Homecomingsから畳野彩加(Vo/Gt)をゲストボーカルとしてキャスティング。からっとしたロックナンバーが多いアルバムの中で異彩を放つ、緩急の激しい「UCLA」はハイハットのサンプリングやトラップに接近した後藤の歌唱など語るべき点は多い。特に、メンバーではない畳野が単独で歌う箇所が用意されているのはアジカン史上初めてのこと。後藤はブログで楽曲に広がりを持たせるため誰かに歌ってもらったほうがいいと思った、と記している。すれ違う男女の心象と、不安定な日々に降り注ぐ祈り。次々と場面を転換し続けるこの曲において、畳野は歌詞中の〈わたし〉を担い、その情景を浮かび上がらせる。それはHomecomingsがこれまで歌い連ねてきた日常の風景ともリンクし、楽曲を大きく広げていく。後藤の力強い歌声と畳野のたおやかな歌声の交差が眩しい、ブリッジから最後のサビへと突き抜ける構成。女性ボーカルという違った色味を加えることによって獲得できた劇的な展開である。
そして最新シングル曲「触れたい 確かめたい」ではさらにツインボーカルの表現を拡張した。跳ねたリズムと感傷を誘うギターフレーズの中、塩塚は歌詞のおよそ半分を歌唱する。もうここにはいない大切な人に向けた、寄る辺のない想いが心を埋め尽くしていくーーまるで映画のワンシーンのような詞世界だ。塩塚はその言葉たちを台詞のように噛み締めながら発し、旋律の上に運ぶ。儚くも涼やかな歌唱は楽曲のセンチメンタルをじっくりと演出し、サビでエモーショナルに歌い上げる後藤にぴったりと寄り添う流麗なハーモニーには思わず息を飲んでしまうはず。
曲中、塩塚が〈僕〉という一人称で歌っているのも印象的だ。生きる日々の道中で遭遇する別れと後悔。その悲しみには性差などなく人間という生き物にとって根源的だ、ということを表現しているのではないだろうか。単に男女の気持ちを歌い分けるだけに留まらない革新的な混声の使い方である。キーや声色の異なる歌声が掛け合わさって呼び起こされる未知なるイメージ、メロディと言葉の親和性というのが確かにあり、アジカンは楽曲に導かれては表現を追求していく。その柔軟さは誰もが真似できるものではなく、記名性の強い後藤の歌唱や確固たるバンドサウンドの賜物だろう。来年結成25周年にして今なおトライアルを止めないアジカンの姿勢はさらにこれから特別なものになるはずだ。
■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
note
Twitter