椎名林檎、演出で表現する“生としての響き”ーー観客の胸を打つ、豪華絢爛なステージの魅力

原動力は子どもたちとプレゼン?

 椎名林檎は、デビュー当時から楽曲提供を行っていたこともあり、実際は表舞台に立つのではなく、裏方に専念したいと度々メディアで発言している。しかし、大胆な格好で堂々とステージする姿は、まさに表舞台に出るべくして出ている人だ。また、ステージのアイデアも、アルバムの曲名や再生時間のシンメトリーについて「(内容よりも)デザインとしての文字の魅力の方が勝っちゃうんですかね」と音楽番組『LIVE MONSTER』で語っていたように、物事をデザイン化してしまう自身の“クセ”が強みとして活かされているのだろう。本当は裏方として活動したいが、自身をデザインの一部だと割り切ったようなステージを構成している原動力は、ファンが日々の生活で溜めている“いろいろ”をライブというハレの場で発散させて欲しいという気持ちはもちろんのこと、“子どもたちへの想い”、そして“プレゼン”によるものが大きいと私は思う。

 3年前、椎名林檎はYahoo!のインタビューで「15歳の女の子全員が「人生、余裕! 楽勝!!」と清々しく言いきれる世の中になればいい」と発言していた。4年前にも、NHKのインタビューで「今打ち込んでいること、繰り返し鍛錬していることがどのような形で実を結ぶのかイメージできることが“夢がある”ってことだと思うんです。世界がどうなっても変わらない価値を持ち続ける子どもたちがずっとバトンを渡していってくれるように、環境は整えないといけない。それは自分たち大人の義務だと思っています」と発言していた。これらの発言から、椎名林檎が抱える未来を担う子どもたちへの並々ならぬ思いを感じる。

 実際、椎名林檎/東京事変の最近のステージは、豪華絢爛で、観る者に夢を与える。自分のステージを観ることで、子どもたちが”人生こんな風に楽しくやっていきたい”と思ってくれたら――という使命感が、椎名林檎をステージに立たせているのではないだろうか。

 また、椎名林檎は『LIVE MONSTER』で「オリンピックまでにキャバレーを作りたい」と夢を明かしていた。そして、自身のライブ『(生)林檎博'14 ―年女の逆襲―』を”キャバレーのような大人のサロンが完成するという、その夢の実現までの女の一大ストーリー”に仕上げ、そのライブを観た人に対するプレゼンだと語っていた。「どなたが出資してくださるのかな」と(『ZIP!』より)。

椎名林檎 - 「今」 from (生)林檎博’14

 だからこそ、椎名林檎はステージに対して非常にストイックなのだと感じる。子どもたちが、関係者が、そしてファンが目にする映像資料として、大阪公演が収録された2015年発売のライブDVD『(生)林檎博'14 ―年女の逆襲―』について、『CDTV』で「本当にこんなゲネプロみたいなものを観て頂くのが申し訳ないな。千秋楽の博多の映像を撮って頂きたかった」と苦笑していたのが今でも印象に強く残っている。皮肉なことに、椎名林檎が裏方に専念したいと思えば思うほど、エンターテイナーとしての椎名林檎が色濃くなっていく。もっとも、本人にとってこれは悩ましいことかもしれないが。

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