back numberは、混沌とした“今”聴き手に寄り添う 新曲「水平線」に込められたメッセージを読む

 きっと大人だけではなく、10代の子どもたちも数々の「どうして」を呑み込んできただろう。「仕方ない」という言葉で何度もないがしろにされてきた人もいるはずだ。そんな彼らにback numberは、感情を抑える必要もなく、悲しさも悔しさもさらけ出していいんだと優しく語りかけてくれる。この言葉に、今まで我慢してきた彼らはどれだけ救われただろうか。歌詞に描かれているように、耐える理由を探しながら生きている彼らに思いを馳せるだけで心が痛む。けれど、〈あなたの希望が崩れ落ちて 風に飛ばされる欠片に 誰かが綺麗と呟いてる〉と囁く歌声の美しさもさることながら、海に向かって叫ぶ少女の姿は疑いようもなく綺麗だ。どんなに日常をかなぐり捨て、誰の心に残ることもない一日が、叫びたいほどの悲しみも微かに抱いた小さな希望も呑み込んで水平線の彼方に沈んでいこうとも、“誰か”が見たその人自身の輝きは一つも失われていないことに気づく。

いつしか海に流れ着いて 光って
あなたはそれを見るでしょう
(「水平線より」)

 穏やかな歌声とは裏腹にあまりにも現実的な歌詞が並んでいるが、最後のフレーズは何度も夜と朝を繰り返した先に、誰もが日常を取り戻せる本当の“朝”が訪れた未来を静かに予感させる。その時過去を振り返った彼らは、今年何かを諦めた自分を愛おしく思えるだろうか。断言もせず、綺麗ごとが一切描かれていない歌詞をみて、以前back numberがライブで語った「人生の最悪な日に少しでも寄り添えるようなバンドになりたい」という言葉が浮かんだ。今年はその“最悪な日”を体験した人もたくさんいたことだろう。インターハイに出場予定だった高校生にとっては、開会式予定の今日がそうだったかもしれない。そんな日に発表された「水平線」は、back numberから高校生に送る手紙でもあり、遠い未来から届いたタイムカプセルでもある。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter:@bonoborico

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