石井恵梨子のチャート一刀両断!
back number、ワンオク、ヒゲダン……2019年チャートをバンド作品から振り返る “やりたいこと”と“届けること”の両立が鍵に
アルバムチャート年末特別編。全体では嵐のベスト盤の強さとK-POPの幅広い支持層に感じ入った一年でしたが、ここでは日本のロックバンドに焦点を絞って話を進めます。なお、参照は6月にオリコンが発表した「2019年上半期ランキング」および7月以降の「月間ランキング」。月をまたいでロングセールスを記録する作品もあるため、カッコ内の売上枚数はあくまで発表時の概算ですが、ざっくり売れた順に見ていきましょう。
今年最も売れたロックバンドのアルバムは、1位から順にback number『MAGIC』(28.1万枚)、ONE OK ROCK『Eye of the Storm』(27.1万枚)、そしてBUMP OF CHICKEN『aurora arc』(23.2万枚)となりました。続く4位がB’zの『NEW LOVE』(22.7万枚)。ちょっと驚きました。メジャーの世界で一番売れるロックがB’z、ギターヒーローといえば松本孝弘。長らく漠然としたイメージを持っていましたが、今は彼らよりワンオクが強く、さらにback numberが強い時代なのですね。それにしても4作品が20万枚超えって素晴らしい。まさに日本を代表するスタジアムバンドたちです。
back numberはロックというよりもポップス、いやバラードの名手として広く聴かれています。ただ、『MAGIC』の一曲目を聴くと、“ポップスターのポジション”と“本当の自分の声”に挟まれてめちゃくちゃ葛藤している様子。バンドの世界では必ずしもチャート1位が正義ではなく、かといって当然、誰にも聴かれたくないと思いながら曲を作る人もいないわけです。いかにして「自分たちのやりたいこと」を貫き、それを「多くの人に届く」ヒットにするのか。全ロックバンドにとって永遠のテーマでしょう。
米国拠点で活動するワンオクは、葛藤に葛藤を重ねた結果、いち早く「ギターの音がほぼ聴こえない」ロックアルバムを作りました。ロックが元気な日本と違い、欧米ではバンドサウンド自体が死に体です。生ドラムやエレキギターの音を極力控えた、まさしく米国仕様の『Eye of the Storm』サウンドを、日本のリスナーはどう感じたのか。ファンの賛否はかなり分かれているようで、次作のセールスが興味深いところです。
そのワンオクに倣ったわけではないですが、中域に集まりがちな生バンドの音をどうワイドに広げるか。どう豊かにローを出すか。そんな命題と向き合うバンドが増えたのも今を象徴する話です。昨年末にリリースされたASIAN KUNG-FU GENERATIONやRADWIMPSの新作、今年の夏に出たthe HIATUSの新譜などは、それぞれサウンドデザインの問題に真正面から取り組んだ傑作でした。でかい音のなか甲高い声を叫べばロックバンドはOKなのか。これは、今年に限らず来年以降も考えていくべき問題でしょう。
RADWIMPSの名前が次に出てきます。5位から10位は、Official髭男dism『Traveler』(14.5万枚)、スピッツ『見っけ』(11.6万枚)、RADWIMPS『ANTI ANTI GENARATION』(11.1万枚)、SEKAI NO OWARI『Lip』(10.9万枚)、THE YELLOW MONKEY『9999』(10.6万枚)、SEKAI NO OWARI『Eye』(10.1万枚)。おお、ベテラン人気バンドの中でヒゲダン大躍進! 今年後半に最も勢いがあったバンドは間違いなく彼らでしょう。
ブラックミュージックを洒脱に解釈する現代のバンドといえば、これまでSuchmosやceroが代表格でしたが、より大衆的なJ-POPアプローチで前に出たヒゲダンが今後の新しい顔になっていきそう。そしてまた、ヒゲダンをシティポップの文脈で括る声って聞かれないですよね。Suchmosの新作が今までのイメージを覆すサイケデリックアルバムだったことも含めて、長かったシティポップブームに潮目の変化を感じたのも今年でした。