蒼井翔太、ライブ音源配信を機に味わうカラフルな歌声 多彩な楽曲を歌いこなす表現力の進化も
女性でも難しいと言われるキーを軽々と歌いこなすハイトーンボイス。控えめに言って大天使かと思うほど愛と癒しに満ちたファルセット。その2つを合わせた、ネット世代をも希求するミックスボイスに、ロックバンドのボーカリストと遜色のない激しいシャウト、男の色気を感じる艶やかな歌声……。楽器に置き換えて言えば、ソプラノサックスをベースに、アルトサックスやバリトンサックスだけでなく、フルートやクラリネットと瞬時に持ち替えながら吹いているように感じるほどだ。この多彩な歌声を持っている武器に、声優、シンガー、舞台、ドラマと多岐にわたるフィールドで活躍中の蒼井翔太は、1曲ごとに異なる声色、表情、キャラクターを見せてくれる。そのカラフルさ、引き出しの多さはアルバムでも味わうことができるが、ライブではその魅力がより凄みを湛えて伝わってくる。1曲1曲を丁寧にレコーディングしていくアルバムと違って、生のライブではまさに目の前で瞬時に声という彼にしかない楽器を次々と持ち替えていくのだから。
まだ蒼井翔太のライブに足を運んだことがない方は、8月10日に解禁されたライブ音源2作をぜひ聴いてみて欲しい。1作目は2017年10月にリリースした2ndアルバム『Ø』を引っ提げたライブハウスツアー『蒼井翔太 LIVE 2017 WONDER lab. Ø (ゼロ)』。和テイストのロックナンバー「零」「奏世」では、男花魁のような力強くもあでやかな歌声を響かせ、「glitter wish」では1番で母性を感じさせたかと思えば、2番では少しハスキーなボイシングで父性を表現し、慈愛でリスナーを包み込み、エレキギターの速弾きに導かれた「HEAVEN」ではロック好きの少年のように無邪気に観客を煽り、〈ヤレるもんならヤッてごらん〉と挑発。そして、三味線がフィーチャーされた「MURASAKI」では歌詞にある通り、赤と青を混ぜた声色と〈生まれ変わっても「君以外見えない」〉というフレーズで魅了した。
続く、ビートの効いたミドルテンポのバラード「flower」ではアカペラも飛び出し、メッセージ性の強いロックナンバー「Virginal」でロングトーンを高らかに響かせた。そして、ライブならではといえるアコースティックコーナーでは、優しい語り口による「ずっと…」でクラップする観客と歌の会話も繰り広げ、英語のフレーズも多い「Always Be Together」からはさらなるファンとの絆の強さも感じ、より親密なムードが増した。
観客の合いの手から笑顔が見えるポップナンバー「Hungry Night」を挟み、「INVERTED」からは怒涛の後半戦に。前半が和、太陽だとすると、後半は洋、月という相反する世界観を生み出し、「DDD」「イノセント」「絶世スターゲイト」とアグレッシブなナンバーを連発して熱気をあげ、ファンに向けたピアノバラード「ココに」を感情豊かに歌い上げて本編を締めくくった。歌声だけでスケール感を広げていくダイナミックさには強さと自信を感じるほどだ。
さらに、アンコールではエロかっこいいダンスナンバー「SMILE SMILE SMILE」、“蒼井翔太の音楽のはじまりの歌”である1stミニアルバム収録曲「ブルーバード」をまさに空高く駆け上がるかのように歌い、Wアンコール曲として「START!!」をチョイス。2020年時点で振り返ってみれば、蒼井翔太にとってこれが初の本格的なツアーであり、文字通り、新たなはじまりを刻んだライブだったのだ。