蒼井翔太の一筋縄では括れないアーティストとしての多面性 サブスク解禁を機に辿る歌声の魅力
声優、シンガー、舞台、ドラマと様々なフィールドで活躍中の蒼井翔太の楽曲がついにサブスクで解禁された。2013年6月にリリースされた、蒼井翔太としての1stミニアルバム『ブルーバード』から、2枚のフルアルバムとベストアルバム『S』、そして、2020年4月にリリースされたばかりの12枚目のシングル『BAD END』までの全シングルを含む計79曲のストリーミング配信がスタート。リアルサウンドではこれを機に彼の歌声の魅力と人気の秘訣を紐解いていきたい。
蒼井翔太はひと言では曰く言い難いアーティストだ。自分自身の声にコンプレックスを抱いていたという彼は、中学3年生の時に友達と行ったカラオケで歌声を褒められたことで歌に興味を抱き、ヤマハの『TEEN’S MUSIC FESTIVAL』への出場を契機に、シンガーとしての活動を開始した。その後、自身の意思でアニメやゲームの世界を目指し、声優としてのレッスンを重ね、2011年に声優としてデビュー。2013年にアニメ『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズで演じたミステリアスなアイドル・美風 藍で一躍注目を集めた彼は、アニメ『初恋モンスター』では“男の娘アイドル”であるレンレン役に起用され、アニメ『戦姫絶唱シンフォギアAXZ』では錬金術によって男性から女性になったカリオストロとして歌唱。
さらに彼は、アニメだけでなく、2015年11月上演の舞台『PRINCE KAGUYA』で、プリンスであることを隠していたために都の男たちに求婚されてしまうカグヤを演じ、2016年12月上演の舞台『スマイルマーメイド』では人魚姫に扮した。そして、昨年の秋にオンエアされたドラマ『REAL⇔FAKE』では、ドラマ初出演にして、天使の歌声と絶賛されている歌姫“朱音”を演じている。さらに、アニメ『ポプテピピック』では本人役で実写出演し、2次元と3次元の壁を越え、宮野真守とWキャストで主演を務めたブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』では演出のデイヴィッド・セイントが「翔太のトニーは10代に見える」というコメントを残している。この時点で、彼が声の演技だけでなく、歌という表現においても、性別や年齢、次元といった様々なボーダーを軽々と飛び越える、ハイブリットなアーティストであると言えるだろう。
彼の魅力の一つは、包容力と癒しの効果を持ったハイトーンボイスにある。彼のルーツである倖田來未と音楽番組『FNS歌謡祭』で「愛のうた」をデュエットした際にはハモを担当し、レーベルメイトである水樹奈々がTwitterにアップした「愛の星」のコラボ動画では、「もともとキーが高くて音域が広くて難しい」と言われている彼女の曲で美しいハモを披露し、水樹を驚かせている。ハイトーンによって美しさが重ねられていくような2ndシングル曲「TRUE HEARTS」や、3rdシングル『秘密のクチヅケ』のカップリングで自身が作詞作曲をしたピアノバラード「glitter wish」でのファルセットの抜けの心地よさなどにも、その唯一無二の歌声は活かされている。また、TVアニメ『ファンタシースターオンライン2 ジ アニメーション』のOPテーマに起用された5thシングル曲「絶世スターゲイト」はハイトーンによるサビから地声のAメロというジェットコースターのような構成になっており、最初の90秒を聴いただけでも彼の音域のとてつもない広さが伝わるのではないかと思う。
そして、自身が出演しているアニメ『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』のEDテーマに起用されている最新シングル曲「BAD END」は彼のハイトーンボイスが最大限に味わえるダークなシンセロックとなっている。これまでにないキーの高さに挑戦しているのだが、ただ高い音域が出るだけでなく、楽曲の主人公の感情もしっかりと表現。彼が扮するジオルド王子の視点も盛り込まれており、少し強引な姿勢も見せつつ、サビの最後には吐き捨てるようなセリフも用意されている。ドキッとさせられるリスナーも多いのではないかと思う。また、この曲ではファルセットに地声(チェスト)を混ぜたミックスボイスも用いられており、カップリングに収録された英語歌詞で自作曲のダンスナンバー「Existence」を含め、表現の幅がさらに広がっていることを知らしめる1枚となっていた。
「BAD END」の到着から半年前。前作「Harmony」は、ファルセットから地声のハイトーンを響かせた、優しい陽の光で満ちた青春を感じさせるポップロックだった。さらに半年前の10thシングル曲「Tone」はダンスグループのようなさわやかで清々しい楽曲で、サビでは透き通るような澄んだハイトーンボイスを聴かせてくれる。かと思えば、9thシングル曲「Eclipse」ではハードコアのロックバンドのような低くエモい声でシャウトし、前述の『初恋モンスター』のOPテーマに起用された6thシングル曲「イノセント」では、ビジュアル系のロックバンドのボーカル然としたハイトーンを繰り出し、2ndアルバム『Ø』のリード曲「零」では、和ものハードロックを妖艶に歌い上げ、シャープな色気も発露。前述の舞台『PRINCE KAGUYA』のテーマソングとして制作された4thシングル曲「MURASAKI」は同じ和風でもサウンドはエレクトロになっていた。
何が言いたいのかというと、彼は、リリースするたびに違う表現方法にチャレンジしているのだ。音盤の中のキャラクターたちは、それぞれ性別も年齢も次元も違うし、ジャンルも多彩。白から黒、ピンクからパープルへ。計79曲、様々なタイプの歌唱法と楽曲が並んでおり、聴き手の頭が混乱するほどの多様性を湛えている。蒼井翔太はどんなアーティストなのか。一筋縄では括れないからこそ聴き流せないし、ついつい本気で聴き入ってしまう。そういう引力が、蒼井翔太の音楽には常にある。自作曲「I am」では〈生きにくい世の中だけど/誰かと同じ仮面なんて脱ぎ捨てて〉と歌っているように、蒼井翔太は、他の誰とも似ていない。男性とか女性とか、プリンスとかプリンセスとか、2次元とか3次元とか……。明確なイメージを限定しない分、ナゾがリスナーを待っており、だからこそ、何度も何度も聞き返したくなるのだ。
5月から6月にかけて開催予定だった全国ツアー『蒼井翔太LIVE 2020 WONDER lab. DIMENSION』は残念ながら中止になってしまったが、ツアー初日を予定していた5月2日には「Shake Shake! Together! -Home session-」がSNSで公開され、一人ツインボーカルを披露している。次に公演が行われる際、新たな表現方法を獲得し続ける彼が今度はどんなチャレンジを見せてくれるのか。既存のファンも新たなリスナーも、このサブスク解禁を機に、蒼井翔太のボーカリストとしての多面性をたっぷりと感じてもらいつつ、性別も年齢も次元も超えたこの世なる美の進化を心待ちにしたいと思う。
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