イヤホンズ、「耳の中へ!!!」オリジナルバージョンと聴き比べ 大きな変更点と注目すべきポイント

 イヤホンズが、自身のCDデビュー記念日である6月18日に新録曲「耳の中へ!!!」を配信リリースした。これは彼女たちのデビューシングル「耳の中へ」をリアレンジして新たに録音したもので、7月22日にリリースされる3rdアルバム『Theory of evolution』からの先行配信曲となっている。

 これを機に、ちょうど5年前にリリースされた「耳の中へ」オリジナルバージョンとの聴き比べを行い、変更点や注目すべきポイントなどをまとめてみた。ぜひ実際に聴き比べながら読み進めてみてほしい。

 なお、以下「耳の中へ」を「原曲」、「耳の中へ!!!」を「新録」と表記する。

大きな変更点は2つ

 まずプロデュースワークとしての変更点を見ていこう。歌詞やメロディ、構成に変更はなく、BPMもほぼ同じ。3人の歌割りもまったく同一となっている。最も大きく変更されたのはアレンジだ。きらびやかなシンセサウンドがメインの原曲に対し、新録は生演奏のバンドサウンドが軸となった。編曲と演奏はおなじみの月蝕會議が担当しており、“テクノポップの曲”という印象が強かった原曲を、オルタナ感あふれるポップロックに生まれ変わらせている。

 もうひとつ大幅に変更された要素としては、ミックスバランスが挙げられる。原曲ではボーカルの音量バランスがバックトラックに比して極端に大きくミックスされていたが、新録ではそれがかなり控えめになった。相対的に楽器類のレベルは大きめになっており、とくに低音に関しては「イヤホンズ史上最もベースがよく聴こえる曲」と言ってもよさそうだ。つまりこれは「今の3人の力量であれば、このバランスでも埋もれずに主役としてしっかり存在してくれる」という制作側の確かな信頼の表れにほかならない。その結果、より自然でより音楽的なサウンドメイクが可能となった。

 これまでのディスコグラフィを順番に聴いていくと、このことはさらに理解しやすい。録音時期が新しくなるにつれ、少しずつバックトラックのバランスが大きくなってきている様子が確認できるはずだ。この5年間における彼女たちの成長が最も端的に表れているポイントは、歌そのもの以上にミックスバランスにあるという見方をしてもいいのかもしれない。

1stシングルは例外的存在

 とはいえ、新たにレコーディングされた3人のボーカルが最大の注目ポイントであることは間違いない。原曲リリース当時の3人はまだ右も左もわからないほどの新人声優で、本格的なボーカルレコーディング経験もほとんどなかった時期。ゆえに原曲には必死さの伝わる初々しいボーカルトラックが記録されており、これはこれで非常に味わい深いものとなっている。その一方で新録においては、ボーカリストとしても声優としても格段の進化を遂げた3人による圧巻の歌声を楽しむことができる。

 注意すべき点は、彼女たちのボーカル録音としては1stシングルだけがかなり例外的であるということ。初々しさという名の拙さが随所に散見されるものの、わずか1カ月後にリリースされている2ndシングル曲「それが声優!」において、その拙さが多くの部分において早くも改善されているからだ。1stだけが突出して拙い原因は定かではないが、ファンとしては「諸事情で実力が発揮できていなかったのだ」と捉えるのが最も幸せな態度になり得るだろう。

ボーカルトラックの注目ポイント

 その上で両バージョンのボーカルを聴き比べた際、最も違いを感じられるポイントは長久友紀の「へ」ではないだろうか。1番Bメロの長久パート〈きき君だけの世界へ〉の「へ」部分のことで、音的には2分+8分音符程度の音価を持つF#音。ロングトーンと呼べるほど長い音でもないが、原曲では豪快にヨレて独特の甘みをトッピングさせていた。しかし新録では非常に安定した「へ」を響かせており、もはや「上手に歌えるかどうか」などというレベルをはるかに超越した表現領域に到達していることがうかがい知れる、象徴的な1音となっている。

 高野麻里佳に関しては、もともと持っている声が高音寄りであるためか、原曲ではAメロ〜Bメロの比較的低めの音域に若干苦戦していた印象があった。しかし新録においてはそれをまったく感じさせず、むしろ余裕さえ漂わせながら原曲以上のキャンディボイスを低音パートにおいても安定的に発している。

 歌唱力には定評のあるリーダー・高橋李依でさえも、原曲にはところどころで揺れやヨレが見受けられた。が、それも今となってはむしろ貴重と言っていい。高橋のヨレた歌声など、おそらく金輪際聴くことはできないと思われるからだ。

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