sumika、十人十色の価値観を肯定する『Dress farm 2020』 ライブで大切にしてきた“等身大のエンターテイナー”の姿
5月末のこと、sumikaが『Dress farm 2020』として、新曲4曲と未発表ライブ映像4曲を、sumika OFFICIAL YouTubeにて公開した。まず、『Dress farm 2020』とは何かというと、今作を鑑賞する“価値の設定は自由”であり、“金額という形で付けていただいた価値に関しては、服(ドレス)を着せて、きちんと次の畑まで届けるという事が、今の役目だと思うので、本プロジェクトの寄付額の半分を、この国の医療を支えて下さっている医療従事者の方々に。そしてもう半分を、自分達をここまで育ててくれたエンタテインメント業界の活動支援とさせて頂きます”(“”内メンバーコメント抜粋、以下同)とのこと。新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために、ほとんどのライブが延期や中止となるなか、それでもたくさんのバンドがリスナーや世の中のことを思った行動や表現をしている今。sumikaも自身のツアーの開催を見合わせるなかで、こういったアクションを起こした。
まず私は、彼らのコメントの“混沌とした世の中で、価値観はいつにも増してバラバラだと思いますので、誰とも比べずに、自分自身の感覚で決めて頂けたら幸いです”という一節に、ふわっと心が軽くなった。コロナ禍において、さらに浮き彫りになった十人十色の価値観。他の人の思想や行動に複雑な思いを抱えたり、あるいは引っ張られたりして、疲弊している人は少なくないはず。そんな中で放たれたsumikaのスタイルとメッセージは「新曲や未発表ライブの映像の公開」「医療従事者やエンターテインメント業界への寄付」といったアクションに留まらない「考え方の提示」になったと思う。このメッセージ、全文が素晴らしいので、ぜひ読んでいただきたい。
もちろん作品も素晴らしい。まず、4曲の新曲は、メンバー全員が作曲できるスキルを活かし、ひとり1曲ずつ作曲。こうして“四者四様の答え”を、まず自分たちが表明しているところも、先に書いたメッセージと通じていて、説得力を感じる。また、レコーディングは初めてリモートで行ったそうだが、鉄壁のグルーブは健在。そして、たしかに四者四様な、リスナーの状況や気分によってチョイスできる4曲が揃っており、彼らのエンターテイナーとしての矜持も感じるが、どんな困難があってもあきらめずにポップミュージックを生み出し続けてきた彼ららしい力強さは、4曲すべてに宿っていることは特筆しておきたい。
そして、この記事でフォーカスを当てたいのは、4曲の未発表ライブ映像だ。昨年、2nd アルバム『Chime』をひっさげて行われたツアーのファイナルとなった、6月30日の大阪城ホールの模様が映し出されている。メンバーとオーディエンスの「ライブって楽しい!」「音楽が大好き!」という感情が画面から溢れ出てくる「Lovers」。アタマからハンドクラップ満開、笑顔も満開な「1.2.3..4.5.6」。歌声のみが切々と響き渡るオープニングから、グッと惹き込まれる「リグレット」。大阪城ホールを埋め尽くす大合唱と、オーディエンスの表情が印象的な「伝言歌」。もちろん、どれも音源で聴いても素晴らしい、人気の高い名曲ばかりである。しかし、私は、それだけではない視点で選曲されているように思えてならない。「この場所」「この時」「ライブ」だからこそ生まれ得るものを伝えたい、届けたいという意味での、この4曲だったのではないだろうか。