sumika、十人十色の価値観を肯定する『Dress farm 2020』 ライブで大切にしてきた“等身大のエンターテイナー”の姿

 さらに想像するなら、1年前のライブに、彼らは今の思いを託したのだと思う。「伝言歌」の曲中で片岡健太は、「限界の人間をギリギリで救ってくれるもの」について叫んでいる。ぜひ、映像を観て、それが何なのかを確かめてほしい。きっと、今こそ、それが何なのかを知りたい人はたくさんいるのではないだろうか。

sumika / 「伝言歌」【Dress farm】Live at 大阪城ホール 2019.06.30

 また、今のようにアリーナクラスの会場でライブをやるようになる、ずっとずっと以前から、sumikaは「ライブでしか体感できないもの」を追求してきた。ホーンやストリングスといったメンバー以外の楽器のみならず、映像作家や写真家などといったアーティストともコラボレーションすることで、一期一会のケミストリーを起こして楽しみ、楽しませてきたのだ。そういった唯一無二の現場を、誰もが集い、くつろげるような住処にしてきて、今の彼らがある。ここに映し出されている大阪城ホールのライブも、セットの効果も相まって、まるで家の近所で迷っていたら素敵な場所があった! と思えるような身近な雰囲気。例えば、仕事や育児の都合でしばらくライブをご無沙汰していても、彼らのライブならいつでも気張らずに再訪できるんだろうな、と思える。これだけの規模感で、これだけ洗練されたエンターテインメントを見せていて、いい意味でこんなに敷居が低いバンド、なかなかいない。しかし、だからって、彼らがリラックスしたパフォーマンスをしているかというと、それだけではない。しなやかながら全身全霊で、時には必死の表情で、音楽を届けてくれるのだ。愛すべき等身大のエンターテイナー。だからこそ、彼らのメッセージは信じられる。

 ライブとは? 音楽とは? さらには、自分自身の日常や住処や価値観、笑顔など、様々なものを紐解くヒントになりそうな『Dress farm 2020』。ぜひ、触れてみてほしい。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

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