w-inds. 橘慶太×Night Tempo対談【後編】 日本の昭和の音楽に惹かれる理由、今後の野望についても聞く

KEITA×Night Tempo対談【後編】

 w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。2020年3月にはKEITA名義で4年ぶりとなるソロアルバム『inK』をリリースするなど、積極的な音楽活動を行っている。そんな彼がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載「composer’s session」。第6回は外出自粛期間を利用して韓国在住のプロデューサー/DJであるNight Tempoとのリモート対談を行った。

 「フューチャーファンク」の代表的人物として知られ、80年代のシティポップ、昭和歌謡、和モノ・ディスコチューンを再構築した「昭和グルーヴ」という新たなジャンルを追求するNight Tempo。楽曲制作のスタイルについて聞いた前編に続く後編では、Ngiht Tempoが愛する日本の昭和ポップスに感じる魅力や今後の野望について橘慶太が聞いた。(編集部)

Night Tempoの好きなことには共通点がある?

橘:音楽を作っていて1週間ぐらいできない時があると言ってましたけど、そうなった時はずっと一生懸命作り続けるんですか? それともちょっと気分変えるためにやることがあるのでしょうか。

Night Tempo:一応一生懸命作ります(笑)。プログラマーは基本的に結果が出るまでトライアンドリピートなんですよ。韓国のプログラマーはすごくハードで3週間家に帰らなかったりすることもあるくらいで。それに慣れているから、ある程度の結果が出るまで寝ないということもできるんです。でも本当にそれでもダメだったら散歩をしたり、お茶を飲んだりします。集中力の問題ではなくてずっと何かを続けてやることが習慣化されているというか。逆に音楽をずっと作っている方が気楽なくらいです。

橘:集中してやることは当たり前で、普通なことなんですね。プログラマーはもっと大変なんですか?

Night Tempo:プログラマー、会社員も同じだと思うんですけど、いろんな人に合わせて進めるというのは大変だし、時間がすごくかかりますね。音楽は自分のリズムで自分のやり方でできるのがいいですよね。もちろん自分が求めているものがなかなかできないとストレスはあります。でも自分ができなくても、偉大なる先輩方が残したいろんなケースを聞き直しながら最終的に答えは出る。だからいつかは答えがあると思えば、ストレスよりは次に別のものを作るための経験になると思えるようになりました。

 でも最初の方は自分には才能がないと思っていました。音楽作りを学んだことがないのでベースがないし、本当に何もできなかったんです。でも真似から始めていろんなことにトライして、自分なりの音が出せるようになって。今はすごく楽しくやっています。

橘:音楽活動を本格化させると周りの人の意見を取り入れなければならない時が出てくると思うんです。スタッフの方からもうちょっとこうしてほしいと要望があったり。

Night Tempo:自分プロデュースで自分のものを作る時と、オファーでリミックスやプロデュースをやる時とでは違いますよね。オファーがあるものについては自分の意見が一番強いとしても他の人の意見を聞いたり勉強もします。もともと会社員をやっていた身としては人の意見を聞かないのはNG。迷惑をかけたらダメですよね。その分自分の名前で作るものは自由だしクセがすごく強くても関係ないので。でもやっぱり自分のことを考えるのが一番大変ですね。

橘:いいですね。とても健全というか。自分のやりたいことがどんどんわからなくなっていく音楽家の方って多いと思うんですけど、そういう棲み分けがあることで自分を見つめ直せるというのはとてもいいことだと思います。音楽を作る時は基本的にご自宅ですか? 自宅に作業部屋があって、パソコンとシンセがセッティングしてある感じでしょうか。違う場所で作ったりもします?

Night Tempo:他の場所で作ることはあまりないです。家が大好きな人なので。

橘:いいことですね、それは。

Night Tempo:もともと作業用に狭い部屋を借りていたんですけど、住む部屋と音楽の部屋を一緒にしました。ちょっとだけ自分に投資をする意味で引っ越したので今は環境が整っています。

橘:家とスタジオが一緒だとずっと作業してしまいませんか?

Night Tempo:そうなんです。ちょっと前から料理が趣味なんですけど、音楽を作っていて頭が回らないな、お腹が空いたなと思ったら料理をして、眠くなったら少し寝てまた音楽をやって、また料理をして……っていうのをずっとループしていて。今日が何日かもわからなくて締切以外はチェックしていない生活です(笑)。

橘:(笑)。最近はずっと好きなことをやりながら過ごせてるんですね。料理と音楽ってちょっと似てると思いません?

Night Tempo:そうだと思います。あとちょっと意外かもしれませんがプログラミングも一緒です。美術で絵を描くのとプログラミングと音楽を作るのと料理を作るのってだいたい一緒なんです。美術も材料を買ってキャンバスというお皿に並べるじゃないですか。料理もそうだし、音楽もいろんなソフトやシンセを買ってDAWに乗せる。プログラミングもいろんなソースを身につけてそれをお皿に全部入れるというか。

橘:好きなことにはすべて共通点があるということなんですね。Night Tempoさんのこれからの目標は?

Night Tempo:自分が好きなものは全部できるようになりたくて。音楽だけではなく展示なども含めてカルチャーを表現するのが最終的な目標です。カセットテープやウォークマンなどをコレクションしているのですが、レトロ文化が好きな人たちにいつかお見せしたと思っています。音楽をがんばって、そこで得た収入でいろんな物を集めています。

橘:全然まだまだ夢の旅の途中なんですね。

Night Tempo:僕はプロフェッショナルな音楽家というよりは、自分のことをキュレーターとして考えています。音楽は自分の好きなカルチャーを広げるための一部。ジャケットにいろんなイラストレーターの方を起用して紹介したり、いろんな音楽のカテゴリーを集めて紹介したり、そういう全てを合わせてNight Tempoだということを紹介している途中なんです。今は音楽の作り手、DJの要素が大きいですが、これからは展示やファッション、いろんなものを合わせて一つの表現にしようと思っています。

橘:いまさらなんですけど、Night Tempoさんのお名前の由来ってあるんですか?

Night Tempo:そこまで特別な意味はないです。プログラマー時代にフクロウみたいに夜に生活をしていて、昭和歌謡も夜に聞いていたんです。夜に聞いていい音楽を目指そうと思ってNight Tempoに決めました。名前にこだわりはなかったから、これでいいじゃんくらいの感覚で。僕の好きなDaft Punkも名前にはこだわりがなかったみたいですよね。元のバンド名があって、そのバンドの音楽を聞いて記事を書く人があまりよくないパンク音楽だって書いていて。じゃあそれを名前にして別の変わっている音楽をするよって言って決めたというのを聞いたことがあります。

橘:(笑)。

Night Tempo:僕の場合は誰かが言ったわけではありませんが、そこまで名前にこだわらなくてもやっていくうちに、ある程度は文脈に合うんじゃないかなと。でもプロジェクトマネージャーとして仕事をやっていたこともあったので、もしこの活動がうまくいったら商標の問題もあるから、できる限りかぶらないものにしようとは思いました(笑)。

橘:Night Tempoさんのビジョンはすごいですね……!

Night Tempo:まだ夢の中の話なので、実現可能かどうかはわからないです。もしできなかったら居酒屋でも開いて自分が好きなものでもお伝えしようかなって。

橘:「居酒屋Night Tempo」いいですね。行きたくなります!

Night Tempo:もう居酒屋で使うための看板も作ったんですよ。

橘:嘘でしょ(笑)。居酒屋のビジョンも早くないですか? あ、カラオケスナックって書いてある!「カラオケスナック 夜の流れ」。素晴らしいですね。

Night Tempo:この看板を見ながら夢にむかってできることを頑張って、できなくても別にできることはまだあるから、重く考えないようにしようと思っています。

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