LOSTAGE、アルバム『HARVEST』で表現する“コミュニティの信頼関係” 「匿名で居場所なんて作れない」

LOSTAGEが語る“コミュニティの信頼関係”

「やりたいことが明確になった」

一一タイトルナンバーの「HARVEST」、まず〈なにもない〉とか〈このまま消え去ろうか〉って歌いながらも〈聴こえるか/燃える魂の声が〉と言い切っていて。かなり重いものを感じました。

五味:あの曲だけ、弟(五味拓人/Gt)が「こういう曲をやるから」ってギターとコード進行、ドラムのビートとかを決めてきて。それ以外は基本的に僕がベーシックを考えてるんですよ。だから珍しい。せっかくやる気出してるし、そこで僕が斜に構えたことやれないじゃないですか。ちょっとズバッと歌詞を書くかと。重めというか、真正面から行こうかな、みたいな感じで。でも結果的に良かったのかな。バンドってそういうものやと思うし。誰かがやる気出せばさらに上に行ける。いい化学反応でしたね。

一一この新曲たち、もうライブでやってました?

五味:年末年始かな、一回ずつ地元ではやったんですけど、本格的にはまだ。やってない曲もあるし。

一一本来は、アルバムを出したあと初の47都道府県ツアーをやっていく予定だったんですよね。

五味:うん。まぁ確実にやる、っていうことだけ決まってるんですけど、いつなんですかね? わかんないですね、ほんまに。その街によって状況も違うから。全部の街に行きたいと僕は思ってるけど、街ごとの空気もまだわかんなくて。

一一あぁ、47都道府県ツアーは全然諦めてない話?

五味:全然。もともと2年とか3年かけてやろうと思ってたから、それがちょっとズレるだけで。でも結局ライブ自体を決めれないんで、今の予定はゼロ、無です。緊急事態宣言が解除されてもね、「みんなが安心して来れない状況でやんのか?」っていうのがあって。ライブも練習も今はやってないし、店も閉まってるんですよ。だから……なんもやってないんですよね。今はまぁ休憩っていうか。それはそれで新鮮だし、リラックスはしてますね、意外と。

一一それでピザ窯とか作っていたと。

五味:あれはピザ好きなんで(笑)。これ今やったらやれると思って。

一一追い込まれたりするようなダメージはなく?

五味:全然ないですね。もともとが不安定っていうか、個人事業って言っても自分の好きなこと好き放題やってきたから。収入も不安定じゃないですか。アルバムとか出りゃまとまったお金が入ってくるし、何もなけりゃ何もないし。「来月どうする?」みたいなことを20年くらい続けてるんで、そこはみんなに比べたら耐性があるというか。

一一逆にチャンスとして考えてることはあります? 配信とか宅録とか。

五味:それもね、オンラインで配信、それぞれ自宅でデータやりとりして曲作ったりとか、みんなやってるじゃないですか。ああいうのがほんまに向いてないなっていうのが逆説的にわかった(笑)。そういう話も一瞬出たんですよ。「宅録で新曲作ってもいいんじゃないの?」ってエンジニアも言ってて。でもメンバー3人とも「……それはちょっと無理やな」「やりたいのはそれじゃないから、今はやらなくていい」って言ってましたね。

一一やるならライブハウスで、デカい音で。

五味:そう。だから良かったことで言うなら、それをほんまに確認できたこと。俺がやりたいのは遠く離れた人とデータをやり取りすることじゃなくて、一個の狭い部屋でむちゃむちゃデカい音でなんかやること。そこでしか得られないものって絶対にあるんで。それを得られてないから、もちろんストレスは感じてますけどね。でも明確になった、やりたいことが。

「便利さの前に必要なのは人間関係」

一一今ジタバタして悲観的になるよりは、とりあえず休むという前提で大きく考えよう、という感じですか。

五味:うん。そうですね。もちろん音楽はやりたきゃまたやる、やれる範囲でやりますけど、これは抗えないものだし。時間が解決するというか。で、今はコロナ以降を語る人がけっこういるじゃないですか。「働き方が変わる」「価値観が変わる」みたいなこと言われてるけど……どう思います?

一一うーん、震災のときもそうだったけど、案外何事もなかったように戻るんじゃないかとは思います。でも定時に出社してた人は違うのかな。毎日電車に乗って同じ時間に集まる必要もないって気づいたり。

五味:あぁ。でもそれ、僕らはもっと早く気づいてたわけじゃないですか(笑)。言い方悪いけど。だから、より人間らしく生きる、みたいな方向に向かうのかなっていう気はする。でも劇的には変わんないでしょうって僕も思いますよ。

一一「髑髏」にある〈わかりあえるかい わかちあえるかい〉って言葉、今一番必要だと思うんですよ。歌詞を書いてたときにコロナ禍は関係なかったかもしれないけど、本当に大切なことずっと歌ってたんだなぁって。

五味:普通のことを普通に歌う、でいいんじゃないですかね? コロナやから書く歌詞が変わるとか、逆に変じゃないですか。ずっと同じこと歌ってる気はしますね。もちろん変わる人がいてもいいし、コロナ以降の作品とか出てくるのもありやと思いますよ。でも自分が歌いたいこと、音楽でやりたいことって、たぶん変わらないなと思う。そんな変わらないでしょう、人間。

一一変わるとしたら価値観のほうでしょうね。巨大エンタメ産業を派手に回すとか、回ってるフリを続けるよりも、直接聴き手とミニマルなやり取りをしていた人たちのほうが強いっていうのは実際に露呈している。

五味:うん、そういうのは感じますね。今はライブハウスも、STORESとかBASEとか、オンラインショップを立ち上げたじゃないですか。自分らで何か売りますって。バンドの人たちもドネーションとかクラウドファンディングをやったり、直接売るオンラインショップに力を入れてたり。でも、あれは言ったらコロナの前、けっこう前からあった仕組みで。それは僕ら、前から感覚的に使ってたっていうのは思いますね。コロナで変わるとしたら今後はそういうとこかもしれない。届け方とかの部分。

一一ただ、オンラインでのやりとりって難しさはありますよね。直接見てはいるんだけど肝心なところで目が合ってないような感じ。

五味:うん、このインタビューもそうですよね。

一一そういうとき、五味くんはどんなことに心を砕いてきたんですか?

五味:や、これはもう割り切る。オンラインで実際の対面と同じようにはできないですよね。これで終わってしまえば「会わないで終わった人」なんで、それこそ実在してようが関係ないじゃないですか。でも、この後どっかで会う、どっかで話する、いつか飲みに行ったり、まぁライブに来てもらったりCD買ってもらったりする。そういう、次のどっかで会える約束ができるかどうか。そのためにオンラインがあればいい、っていうのはなんとなく思ってますね。そこで終わらないこと。

一一相手が実在してることを想像する、その人格や存在を信じること。

五味:そうですね。人格って良いとこも悪いところも絶対あるし、全部を信じてることではないけど。でもやっぱり「こいつは居るな」「見えないところで悩んだり喜んだりしてるな」っていうことを確認したい。感情なんてオンラインで出てこないじゃないですか、みんながSNSに乗せてる写真とか文章なんて上澄みやから。でもそうじゃない部分、表には出さない部分でみんな一物抱えてるっていうことを、確認したいですよね。

一一実在してることさえ想像されずに攻撃されてしまう事件もあるわけで。そう考えるとオンラインにこそ人格が必要というか。

五味:それってやっぱ信頼ですよね。発信するほうと受け取るほうの信頼関係がないところで、情報のスピードだけがどんどん便利になっていくのは、やっぱ怖いなと思う。先に必要なのって、そもそもの人間関係ですよね。それが出来上がってないところで、なんでも自由だとか言って好き放題やるのは違うよなって思う。ちゃんと相手のことがわかってないと。それこそ匿名で居場所なんて作れないと思いますよ。

LOSTAGE『HARVEST』

■アルバム情報
LOSTAGE『HARVEST』
THROAT RECORDS(THC-013)
CD価格:¥2,700(税込)
※Bandcampでの試聴はこちら

-収録曲-
1.かぎろひ
2.パルス
3.独楽
4.髑髏
5.Les Misérables
6.MESSAGE
7.HARVEST
8.グレイアイドフィッシュ
9.残像

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