EASTOKLAB、生活を切り取った『Fake Planets』で示す新たな可能性 変化を楽しむあくなき美への旅路
頭では考えず、“ひらめき”を頼りに
「前作をリリースしたことで新しい景色をたくさん見ることができたので、それを踏まえて、もっと知らないことを知りたい、素敵なものに出会いたいという気持ちが生まれました」(日置逸人/EASTOKLAB)
EASTOKLABは、探究心と向上心の赴くまま音楽を奏でる貪欲なバンドだ。前作『EASTOKLAB』を経て、“知らないことを知ってみたい”という想いに火がついた彼らは、“生活”と“振り切る”をテーマにデジタルミニアルバム『Fake Planets』を仕上げた。軸を手に入れた彼らが、今作で提示するものは、変化を厭わないスタンスだった。今回リアルサウンドではEASTOKLABにメールインタビューを行い、今作の制作秘話を通して、彼らのあくなき美への旅路に迫る。
EASTOKLABの歴史は、日置逸人(Vo/Syn/Gt)が新しくバンドを始めるにあたり、ネット上で知り合った田保友規(Dr)に誘いを持ち掛けたことから始まる。そこへ大学の友人であった岡大樹(Ba)が加入したのち、岡の後輩であり、日置がレコーディングを担当したバンドのメンバーであった西尾大祐(Gt)が加入したことで、現体制が整った。前身バンド(The Skateboard Kids)で海外から大きな反響を受け、“名古屋の新星”として早耳リスナーから注目を集めてきた彼らは、バンド名を改名し、昨年6月にDAIZAWA RECORDS/UK.PROJECTから1stミニアルバム『EASTOKLAB』をリリースした。
耽美で煌びやかなバンドサウンドからは、4ADのアーティストにも通ずるドリームポップやシューゲイザーの影響を強く感じられ、透明感のあるハイトーンで歌い上げる日置の中性的なボーカルは、まさにBlonde Redheadを彷彿とさせた。かと思えば、ART-SCHOOLやTHE NOVEMBERSのような2000年代以降のエッジの立ったオルタナロックの感触も持っていたり、ビートミュージックやヒップホップの要素も兼ね備えているなど、1つのジャンルに形容できない音楽性の幅広さはEASTOKLABの大きな魅力である。
「僕たちはセッションのなかで生まれる“ひらめき”のようなものだけを頼りに曲を作っていくので、音楽についてあまり頭では考えず、フォーマットに捉われないようにしてますね」(日置)
曲作りでは、データで作り込んでから持ち寄るのではなく、メンバー同士が思うままにプレイするセッションから組み立てていくという。誰かが奏でるフレーズやコード進行、ビートから、ひらめきを掛け合わせて構築してゆくことで、メンバーの“無意識の個性”を反映させることができるのだ。
また、『Fake Planets』をフィジカルリリースするにあたり、7色展開のパッケージ、ダウンロードコード、未収録音源データ、全曲解説を特典として封入するなど、CDをただ販売するだけでなく、手元に置いておきたいと思える仕様にこだわったという。音楽をはじめすべての制作物において、等身大の感情で物事を捉え、自らの個性を磨くとともに、“新しさ”を発掘してきた。
向上心が生み出す“振り切る”という動力
今作は、前作リリース後に生まれた楽曲のみで構成されており、非常に短い制作期間となったが、日置は「自然な形で始まって自然な形で終わっていった」という。
「ライブがあったり、練習をしたり、スタジオをほっぽり出して遊びに行ったり、僕らの生活のすべてが制作に反映されています。制作時に生まれた空気をそのまま曲に落とし込みたかったので、制作開始から完成まで瞬時に完結させることに重きを置きました」(日置)
これまではアルバムや楽曲に対しコンセプトを決めてから制作に臨んでいたが、 今作では制約を設けずに制作をスタートするという手法へ切り替えた。 旬を逃さず、彼らの“今”を詰め込んだ収録楽曲は、どれも瑞々しさと勢いが際立ち、 前作で捉えた立体的な演出は、より繊細で豊かな色づきを見せた。 風のきらめき、日差しの揺らぎ、空の色に導かれる高揚感、ほのかに香るノスタルジア。 “生活”から切り取った美が、丁寧に折り重ねられるバンドアンサンブルと奥行きのあるサウンドスケープで増幅してゆく。
特に今作はギターサウンドによるアプローチが、楽曲の持つ“美”や“迫力”を底上げしている。例えばM1「Contrail」では透明感と浮遊感のある儚げなギターサウンドで幽玄さを演出するが、続くM2「Rainbow」ではタッピングやカッティングを用いて楽曲に勢いとパワーを生み出すなど、冒頭2曲だけでもギターの存在感の強さや重要性が伺える。
「前作までは“丁寧に正確に”弾くことを意識していたんですけど、今作はあえてギターらしいプレイを増やしましたね。今まで意識できていなかった部分までしっかり意識を配らせてギターを弾いたのが、バンドサウンドに変化をもたせたのかなって思ってます」(西尾)
前作では加入前に制作が始まっていた楽曲もあったが、今作ではすべての楽曲に0から参加した西尾。彼のギターセンスが開花することで、元々バンドが持つエネルギーや躍動感、美の世界観を助長させ、バンドサウンドそのものに変化をもたらしたのだ。そしてEASTOKLABは、変化とともにイメージのその先へ飛び込もうと試みる。
「前作を作ったことで自分達の大きな軸ができた感覚があったので、今作はその軸を起点にして、さまざまな方向へ振り切りたいと思ったんです」(日置)
「振り切ることの1つとして、誰が聴いても、実際にライブで観ても思わず笑っちゃうようなアレンジにしよう! といって制作したのを覚えています」(岡)
そんな“振り切る”を表現したような、楽曲の振り幅の広さには驚かされた。中でもM5「Farewell」は、アルバムの中でも異彩を放っていた。岡のキャッチーなベースラインから始まり、2分半という短い時間にめくるめく音の波が押し寄せては、すんと引いてゆく。鮮やかで晴れやかな楽曲が多い中、ダウナーな雰囲気をまとう1曲だ。 バンドのイメージを飛び越え、可能性を大きく広げる楽曲がこうも並んだのは、発想の転換はもちろんのこと、メンバーそれぞれのプレイヤビリティが上がったことや、自分たちが使用している機材への理解が深まったことも大きく関係している。
「身体と機材が繋がっているような感覚になった」と日置は言うが、EASTOKLABの楽曲には多彩なサウンドが盛り込まれており、これほどのサウンドを的確に、適正に配置するのは至難の業だ。こういった技術は、日々のライブパフォーマンスから培われていたに違いない。
というのも、彼らは収録、ライブパフォーマンスどちらにおいても、すべての音を同期を一切使用せずに“人力”で出している。 理由は非常にシンプルで、「人間が出した音が1番カッコいいと思っている」。これ以上でも以下でもない。
「同期的なものを全て排除することによって“生のライブ感”が生まれると思っていて。毎回ノリやテンポが少しずつ違うライブができるので面白いですよ」(西尾)
「デジタルなサウンドなのにライブで観たらすごくフィジカル、というギャップが面白いと思っています」(岡)
生身の人間がその場で紡ぐ音にこそ現れる“変化” を、彼らは楽しんでいる。 ふとしたひらめきで描いた音をその場の“偶然”で終わらせず、解読し、ライブパフォーマンスで実演を重ねることで、より知識を増やしていったことも、 彼らの技術を高める要因となっているのだろう。絶えぬ向上心が“振り切る”という動力を生み、バンド自体の変化を生んだのだ。