ヒットの新法則 ~拡大するデジタルマーケットを読む~
ONE OK ROCK、コロナ禍に30万人YouTubeチャンネル登録者数増加 コンテンツを通して作り出した“ファンとの繋がり”
実際に配信された動画でも右上には「Listen / Buy」カードが設定されており、クリックすると外部のスマートリンク(各種ストリーミング配信サービスへの集合リンク)、そしてアミューズ公式オンラインショップである「A!SMART」のツアーBlu-rayの物販サイトへ遷移する設定がされていました。アーカイブもされない配信だったので、見終わった感動の続きはチャンネル内の回遊と外部遷移に徹底されていました。
また毎回生配信後、ストリーミングサービスで疑似体験できるセットリストプレイリストを公開。都度6公演分公開されています。ストリーミング数を増やす方法のエンゲージメントとしても成功しています。
ONE OK ROCK 2014 “Mighty Long Fall at Yokohama Stadium” playlist is up on @SpotifyJP #ONEOKROCK
Follow it now! - https://t.co/h9SjViqxWp
— ONE OK ROCK_official (@ONEOKROCK_japan) April 17, 2020
さてこれから何が見て取れるでしょうか。そう、「ライブ映像を見て自分たちとエンゲージメントしてほしい」ということだけが目的ではなかったのです。ライブ映像を見てもらうことはあくまで手段。継続的に公開することも同じく単なる手段です。
自分たちと音楽の繋がりをもってもらう、ライブでのハッピーな気持ちを思い出してもらう。そしてYouTubeでMVを再度見てもらったり、YouTube Musicから楽曲を聴いてもらう。Blu-rayにも遷移し物販購入してもらう。またApple Music、Spotify、LINE MUSICをはじめとするストリーミングサービスでも楽曲を聴いてもらう。
YouTubeはすでに各所で言われている通り、単なる動画配信プラットフォームではありません。特にアーティストにとってはソーシャルコミュニケーションチャンネルであり、収益元であり、外部誘導できるプラットフォームでもあります。
YouTubeは多くのスマホを所持している人にとって毎日立ち上げるアプリであって、そこに届けられるファンが確実にいる状況。30万人増えて317万人になったYouTubeの登録者、この317万人に向けて今後のONE OK ROCKの新作を知ってもらう、その「繋がり」を作る。それこそが今回の最大の目的だったのではないでしょうか。未来にエンゲージする「繋がり」を確保したのです。
今後しばらくは大きなライブ会場での公演は見通しが立っていません。そんな中でもアーティストは楽曲をリリースします。
アーティストのリリースする新作を聴いた後、ファンは喜びで気持ちが高まります。でもそれだけではありません。何度も聴き、MVを見てまた高まる。そして、その先の実体験として、
・ライブで聴く
・フェスで聴きみんなで盛り上がる
・TVで見る・流れてくる
・TikTokで見る
・カラオケで歌う
といった様々な実体験と結びついて、記憶にポジティブに定着し、再度聴くことで感動が深まる。そんな生活に動画と音楽ストリーミングが常に寄り添う。
しかしどうでしょう。今は“実体験”で抜けてしまうピースがある。アーティストはそれをなんとしても埋める必要があるのです。
新作を出したときに、ライブで、フェスで聴いているようなポジティブな気持ちをファンにどう持ってもらうか。過去のポジティブな記憶を通したファンとの「繋がり」、その気持ちを新作でも持ってもらえるような「繋がり」、新作を出すときに真っ先に知ってもらう「繋がり」、繰り返し聴いて愛してもらえるような「繋がり」。アーティストが今できることとして、そんな未来への「繋がり」に投資したのがONE OK ROCKです。
ファンの皆さんは今後出る新作を聴いたときに、ポジティブな記憶と共に聴けますか?
皆さんの答えは明確ですよね。
そう、であれば彼らの試みは成功なのです。
■松島 功
音楽と美容が好きな人。 昨年末でSpotify Japanを退職。 今は気ままに生きてます。
Twitter