ボカロ×シューゲイザーは何を生み出す? 轟音ノイズとデジタルボイスの親和性とは
“シューゲイザー”というジャンルをご存知だろうか。80年代後半から90年代前半にかけ、UKを中心に優れたバンドが数多く登場したロックムーブメントである。そのシューゲイザーの楽曲を、日本発祥のボーカロイドがカバーするという、なんともユニークなアルバムが2014年1月22日発売になった。その名も『シューゲロイド』。制作したのはCRYV(クライフ)というシューゲイザーシーン、そしてエレクトロロックシーンに精通する双子のインディーロックユニットで、今後もこのシリーズを定期的に発表していく予定だという。
なぜシューゲイザーとボカロ?という疑問も生まれてきそうだが、ここ数年、シューゲイザーは国内外問わず再びブームとなっている。その発端のひとつが、2013年2月に突然22年ぶりの新作を発表し、来日ツアーも行ったシューゲイザーの代表格バンド、マイ・ブラッディー・ヴァレンタインの復活。1991年に発表された作品『ラヴレス』は今もシューゲイザーの金字塔的作品として多くのアーティストに影響を与え続けていて、『シューゲロイド』にもマイブラのカバーが2曲収録されている。
シューゲイザーというジャンルの特色は、圧力感のあるギターのノイジーなディストーション(歪み)と、メランコリックで繊細なメロディー、そして浮遊しているような、儚げなボーカル。もともとシューゲイザーという言葉が“SHOE(靴)”を”GAZE(凝視)“するというところから発生したことでもわかるように、演奏しながら下を向いて靴をずっと見つめているような、内省的な世界観を持つ音楽だ。前述のマイブラ、ライドといったバンドがシーンの中心を担っていたが、その後オアシスやブラーに代表されるブリットポップの台頭とともに、シーン自体が沈静化していった。しかし、2000年代もシガー・ロスなど、シューゲイザーの特徴のひとつである轟音のフィードバックノイズを取り入れたポストロックバンドが活躍し、シューゲイザーというジャンルの懐が深くなるとともに、新しい世代のシューゲイザーバンド=“ニューゲイザー”が注目を集めている。
では日本はというと、このところまたシューゲイザーブームが加速している。2011年には日本初となるシューゲイザーフェス“JAPAN SHOEGAZER FESTIVAL”が始動。Cruyff in the bedroomらが出演し、2012年、2013年と継続して開催されている。なお、日本におけるシューゲイザー的な要素を持つロックバンドの歴史は長く、ロックからももクロらのアイドルミュージックまで幅広いジャンルを網羅する作曲家としても名高いNARASAKI率いるCOALTER OF THE DEEPERSは、日本を代表するシューゲイザーバンド。さらにヴィジュアル系バンドの中で他と一線を画すギターロックサウンドで20年のキャリアを誇るPlastic Tree、そして近年注目されているきのこ帝国やTHE NOVEMBERSも、シューゲイザーからの影響を表現するバンドとして挙げられる。
さて、前述したポストロック勢とともに次世代シューゲイザーの特徴として顕著なのは、エレクトロニカやテクノといった、生音ではない音楽との出逢いだ。ドイツのGUITARやフランスのM83など、元祖シューゲイザーからの影響を受けたアーティストたちが、シューゲイザーの音楽性を取り入れた新しいジャンル“エレクトロ・シューゲイザー”を開拓していくことで、シューゲイザーとコンピューターミュージックとの相性の良さを証明している。
というわけで、駆け足でシューゲイザーの歴史を綴ってみたが、拡大するシューゲイザーシーンに、電子音楽との融合の一例として日本から一石を投じたのが『シューゲロイド』かもしれない。ボーカルを電子化するという実験が、果たしてシューゲイザーファンに受け入れられるのか少し気になるところだが、ボーカロイドの呟くような声が原曲にそれなりに忠実に作ってあるサウンドと違和感なくマッチしていて、安定感のある仕上がりになっている。これまでシューゲイザーに接点のなかったボカロリスナーが、新しい音楽に出会うきっかけになるかもしれないという意味でも、『シューゲロイド』は面白い一枚だ。
(文=岡野里衣子)