「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること
10-FEET TAKUMAが語る、コロナ以降の『京都大作戦』とライブハウス 「いいものに変わる日まで腐らず生きていく」
「思い浮かぶのは、お客さんの姿や声」
ーー『京都大作戦』については、来年以降開催するためにどんな施策が必要だと考えますか。
TAKUMA:今まで通りできる状況が一番の望みやし、そのために全力で取り組んでいきますね。でもこればっかりは本当にわからないんで、無観客でしかやりようがないってなったら、最善の策としてやるかもしれないです。ライブハウスもこれからはキャパ設定を半分にしてくださいって言われるかもしれないし、それが『京都大作戦』に適用されないとは限らないですよね。こういうことってあまり言いたくないんですけど......例えば、お客さんの数を半分にして、スペースを開けてあまり密着せんように楽しんでもらって、あと半分の人にはオンラインで楽しんでもらう特別なコンテンツを提供できるようにするとか。そういう局面になって欲しくないですけど、オンラインでも生でも、両方に感動があることを考えていかないといけないのかなと。半分は配信で見てくれたら十分だよっていう感覚が、自分たちに宿る時代も来るかもしれないですから。
ーー『京都大作戦』は初年度が台風により中止でしたが、そこから10年以上続いてきて様々なフェス運営のノウハウを積まれてきたと思うんです。災害時の雨対策はもちろん、お客さんのキャパシティに配慮してきた歴史もあると思うんですけど、長年やってきたから大丈夫だっていう感覚や自信があるのか、あるいはこれからを考えると不安の方が圧倒的に大きいのか。率直なお気持ちで構わないので、どう感じていますか。
TAKUMA:うーん......一旦収束しても再燃するのか、また次のシーズンもインフルエンザみたいに形を変えながら出てくるのか、わからないことだらけな未知のウイルスやないですか。こんだけ日に日に状況が変わってきているんで、なんとも言えないところはありますけど、『京都大作戦』に関して言えば、なんとなく今まで通りに戻るんじゃないかっていうイメージは不思議とありますね。こういう時に思い浮かぶのって、仲間のバンドが作ってくれた素晴らしいシーンでもなく、10-FEETのライブの名シーンでもなくて、お客さんの姿とか声とか、客席のあの雰囲気なんですよね。お客さんが「うおー!」ってなってる場面が頭に浮かんで、またあの『京都大作戦』に戻るんやろうなって思えるんです。もちろん僕たちがきちっと準備して開催しなくちゃいけないんですけど、最後はお客さんみんなが戻してくれるんじゃないかな......なんとなく、そんな気がしてます。
ーー2月末から全国的にライブが自粛になって、チケット払い戻しのアナウンスが一斉に出はじめた時に、「そのせいで事務所が潰れちゃうんだったら、払い戻しなんてしなくていいから」という声が本当にたくさん聞こえてきて。アーティストとファンの信頼関係というか、金銭を超えた音楽愛の強さを感じた瞬間でした。
TAKUMA:ほんまにすごいことやと思いますよ。「金返せ!」って言われるのが普通のシチュエーションですからね。その権利はあるから当然返しますけど、みんな、ほんまにアツいですよね。
ーーそれって音楽だからなのかもしれないですよね。形がないものだからこそ、ずっと存在していて欲しいっていう想いもより強い気がしていて。
TAKUMA:たしかに。海外はわからんけど、日本のロックのお客さんってほんまにそうだと思う。たまにSNSとか見てても、「今日の〇〇のライブヘボかったな。まあこんな日もあるよな。次また!」とか言って、それでも「次行くぞ!」ってなってるじゃないですか。飲食店だと、いきなり知らんとこ入って不味かったらもう行かないですよね。でもロックの場合、お客さんが激アツですから。めちゃくちゃかっこいいですよね。
ーーロックバンドのライブって、きっといい時も悪い時もあるからこそ、その人間らしさに惹かれるんですよね。あまりよくない時があったとしても、その次に100点満点で1000点ぐらいのライブをする瞬間もありますし、その両方があるからこそロックバンドに夢中になれると思うんです。
TAKUMA:ほんまに同意です。ドンズバですよ。
10-FEETのこれから
ーー初開催以降、『京都大作戦』と10-FEETの歩みはともにあったと思うんですけど、こうしたイレギュラーな中止を受けて、10-FEETのこれからの活動にはどういう影響があると思いますか。
TAKUMA:何もプランはないですけど、ライブの中身自体はよくなると思います。っていうのは、これまでライブをたくさんしてきましたけど、もはや「ライブやりたいからやろう」なんて言わないんですよね、当たり前すぎて。ライブっていうものがパンツみたいになってたんです。「パンツ履こう、俺」ってみんないちいち言わないじゃないですか(笑)。それが今は、「ああ、パンツ履きてえ!」っていうシチュエーションに初めてなったんじゃないかな。リハーサルも練習もライブもそれぐらい期間が空いてるから、「10-FEETやりたい」「ライブやりたい」と純粋に思っていて、それってまさにバンドやり始めた時の気持ちなんですよ。そういう時のライブって悪くなるわけがないと思っていてーーまあブランクある分ヘボいかもしれへんけど(笑)、何かしら突き抜けるんちゃうかなと思ってるし、それくらい今はライブがしたいし、バンドしたいからね。そのチャンスが来たらちゃんと感覚を掴み取れるように、家で曲作ったり、ギター弾いたり歌ったりっていうのは、なるべくしてたいなって思ってます。
ーーポジティブな気持ちを聴けて嬉しいです。『京都大作戦』初回が中止になった2007年って、TAKUMAさんの喉の不調で10-FEETのツアー自体も延期になった年だったんですよね。NAOKIさんがインタビューで「初めて10-FEETが止まった瞬間だった」と言ってたんですけど、その時の気持ちを今思い出したりしますか。
TAKUMA:あの時はね、違う意味で余裕がなかったかな。お医者さん曰く、聴いてる人はわからんレベルで回復したよとか言うんですけど、明らかに声が変わったのが自分ではわかったから、もう同じ声が出えへんかもって絶望していて。ずっと精神的にきてたんですよね。で、『京都大作戦』が中止になってしまったことで、休み明け1発目のライブが『ライジングサン』(RISING SUN ROCK FESTIVAL)やったんですけど、その直前も「大丈夫かな、大丈夫かな」ってずっと思ってて。
ーー不安だらけだったんですね。
TAKUMA:実際始まってみたらめっちゃ楽しかったんですけどね(笑)。コロナ禍が収束してライブができるようになったら、同じ気持ちになるかもしれないです。
ーー過去と今がリンクするのは楽曲にもあるんじゃないかと思って、例えば「OVERCOME」の〈この世界の不治の病を 全部ぶっ壊してやりたいよ〉という歌詞が、今の社会にすごく響くものになってると思うんです。MVのコメント欄に「コロナに負けない」ってコメントしている方がいたりとか。
TAKUMA:そうなんや......! 昔からなんですけど、病にかかってしまうことに対して、イメージがすごく深いところまでいってしまうことがあって。そういう強迫観念で、自分も重い病気にかかってるんじゃないかって思ってしまったこともあるんですけど、その時に「こんなに不安と闘ってる人が世の中にはいるんや」っていうことに気づいて、その気持ちをわかってくれるような音楽があったらいいなと思ったんです。病気と闘ってる人のブログを見たり、10代の子が余命数カ月で闘ってる姿をたくさん見て、俺ええ年して何やってんねん......とか思ったりね。〈不治の病を 全部ぶっ壊してやりたいよ〉なんて、はっきり言って音楽的には歌詞心が全然ないし、そのまんま素直に歌ってるだけなんですけど、なんか急にそういうダサくて工夫がなさすぎるものへの気持ちが、あの時は勝ったんですよね。
ーー今10-FEETの新曲を作ったら、そういうメッセージが際立つものを作りそうだなっていう感覚もありますか。
TAKUMA:それも半々じゃないですかね。パッパラパーでアホな曲を書く可能性も50%ぐらいある気はするし、今の心境のまま歌詞をとことん大事にした曲ができるかもしれないし。どっちにしても、何かしらのバロメーターがドーンと突き抜けてる曲を作りたいなと思います。
ーーTAKUMAさんが作る楽曲の根底に感じるのは、悲しみは消すことはできないけど、悲しみをちゃんと明日の楽しみの糧にしていこうっていうことなんです。ライブでおっしゃったこともあると思うんですけど、世界中が悲しみで溢れている今、音楽にできることの可能性を感じたりしていますか。
TAKUMA:もはや音楽というより、一人一人がそうなっていかなくちゃいけないと思うし、悲しいことも辛いことも、「あの時があったから今がある」っていう風に変えていかなくちゃいけないんですよね。僕も、それができて初めて深みのある音楽に結びついていくと思いますし、飲食店してる人も、建築やってる人も、工場で働いてる人も、先生やってる人も、みんな一緒やと思うんですよね。それぞれの分野で、取り組み方とか、周りの人に投げかける言葉の内容がより深いものになっていくんじゃないかなって。だから、悲しいことを乗り越えていいものに変わる日まで、生きていかなあかんなと思います。腐らず生きていけたら、そうなっていくと思うんですよね。
ーーありがとうございます。最後に、コロナ禍の状況の中で、ライブを楽しみにしている人たち、音楽を愛する人たちに声をかけるとしたら、どんな言葉になりますか。
TAKUMA:俺もどうしたらいいのかわかんないんで、一緒に考えよう、ですね。でも、“ライブ”は絶対戻ってくるよ。本当にそう思ってます。
※ライブ写真はすべて『京都大作戦2019 ~倍返しです!喰らいな祭~』の模様。
撮影=Daisuke_Hirano
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