“言葉”で若者たちを涙させた新曲が最大ヒット、10-FEET・TAKUMAが誕生秘話語る

10-FEET「アンテナラスト」誕生秘話

 リリースされる前からこれほど渇望された楽曲もめずらしい。10-FEETのじつに4年ぶりとなるオリジナル音源が、7月20日に発売された。3曲入りシングル『アンテナラスト』だ。リリースされるや、まさにリスナーの乾いていた心に染み込むように浸透し、オリコン初登場5位という結果になってあらわれた。一体、何がこれほどまでに聴く者の心を揺さぶり、放さないのか。この曲の強さはどこから来るのか。TAKUMAの曲作りへの思いを中心に話を訊いた。(谷岡正浩)※ページ最後に読者プレゼントあり

「完成する前から確信があった」

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TAKUMA

ーーラジオで初オンエアされた直後から、発売を待たずにツイッターなどのSNSを中心に「アンテナラスト」への共感がものすごい勢いで広がっていきました。とくに言葉についての共感が多かったですね。

TAKUMA:ほんとにうれしいです。

ーーアカペラから始まる出だしも印象的なのですが、今回、言葉に関して、より意識的になった部分というのはあったのでしょうか?

TAKUMA:歌いたいことがまずあって、それを歌詞にしていくーー歌にはめていく作業をいつもするんですけど、今回は最初の形からあまり変えていないかもしれないですね。加工していないというか。そのまま歌っているっていう感覚が今までよりも強くあります。加工しようと思っても、ここがベストなんだというか。そういう感覚はこれまでほとんど経験したことがなかったですね。

ーー初めから、歌のあるべき姿として言葉があった。

TAKUMA:それがね、たまたまはまったのか、あるべくして生まれて来たのか、ちょっとまだわからないんですよね。街の裏路地をぶつくさ言いながら歩き回って、それを文字に起こしたんですけど、それがそのまま歌詞になっていったというか。弾き語りで即興で歌う時以外にはそういう成立の仕方ってしなかったんですけどね。だから、おもしろかったですね。

ーーあまり「加工」の余地がなかったからなのか、とても個人的な感情がそのまま歌詞になっている、とも言えますよね。

TAKUMA:そうですね。あまり今までなかったかもしれませんね。あったとしても、もっとスペースがあるというか、余白を残した表現が多かった気がします。それが大事やと思ってやっていたので。僕が聴いてきた音楽がそうでしたから。この人はこの人のことを歌っているんやけど不思議と自分にはまるなあと思わせてくれる言葉、そしてそれが何年かしたらまた違う意味で響いてくるとか、そういう歌の包容力に魅力を感じて日々僕も思いに耽ったりしているので。でもこういうパーソナルなものでも自然と出てきた本当の気持ちというのは、たとえそれを聴いた人のシチュエーションとは違っていても、自分のことのように伝わるのかな、とみなさんの反応を見る限りその可能性を感じている真っ最中です。

ーー「RIVER」(2002年発表)の歌詞の出どころと近い手触りがあるのですが、ただ「RIVER」は何度もライブを重ねる中でオーディエンス一人一人の共通の物語になっていったと思っていて。一方で「アンテナラスト」の場合は、初めから物語としてある、そんな気がしてならないんですよね。

TAKUMA:「RIVER」の頃は、今よりもぜんぜん何も知らなかったし、知らない中で一生懸命表現した歌やったんやなと今は思います。今回の歌は、それから15年くらい経って、もちろんいろいろなことを知る中で、表現するということよりも、大切な気持ちだけを込めていったという感じがしてるんですよね。漢字知ってるけどあえて平仮名で書きました、みたいな。

ーー様々な経験を重ねてたどり着いた、いわば地続きの曲、ということですね。

TAKUMA:そうですね。

ーーその経験の中に、「その向こうへ」(2011年発表)はとくに重要な着地点としてあるのではないかと思いました。つまり、震災という共通の経験や感情を歌に込めたという点で、「RIVER」とは違う物語の成り立ち方をしていますよね。

TAKUMA:たしかにそうかもしれませんね。でももう一回あれをという感じではなかったんですよ。それは歌詞もそうなんですけど、とくに曲へのアプローチから説明したほうがわかりやすいかもしれません。『その向こうへ』っていうのは、作ってる自分からすると、曲そのものは決して激しいものではないんです。でもサビで「その向こうへ」と叫ぶことで、体感としてラウドでエモーショナルな曲として成り立っているんですよね。それが出来たというのは一歩前進したというか。その前は、ラウドでエモーショナルな曲を作るのには、全体を通して激しいもので武装しないといけないというふうに思ってやってましたから。それで今回のは、シャウトすることもなく、それでも感情の炎をそのまま受け取ってもらえる、というような曲が出来たんじゃないかなと思っていて。これはあくまで自分の中のシミュレーションというか想像なんですけど、パッと聴いたら多くの人は、これを激しいロックな曲だとは思わないんじゃないだろうかと。でも聴き終わって、体や心には熱いものがたしかに残っている、その感じがすごく大事やと思って作ったんですよね。あとはそれが実際にみんなのところにそういうふうに届くのか、というのはわからない部分なんですけど、なんか、完成する前から自分の中に確信があって。きっと伝わるはずやと思ってたので。

ーー完成する前にすでにあったんですね、確信が。

TAKUMA:ええ。次の一歩っていう道標みたいな曲が出てくるぞっていうのは、頭で考える前に直感で確信みたいなものがすでにあったので、その確信をあとは勇気と熱を持って一緒に作っていくチームに伝えていくだけというか。そこが一丸となれるかどうかは、「本当にその曲が持ってるか持ってへんか」なんですよね。でもそれは絶対にあると信じてたので。そこに迷いはなかったですね。だから今、「アンテナラスト」いいですねって言ってもらえることが本当にうれしいんですよ。でも一方で、もっとわかりやすく激しいミスクチャーな曲のほうが良かったって感じる人もいることはわかってるんです。なんや、10-FEET落ち着いたなっていうふうに受け取る人。でもそれは、そこを通って行かないといけない道筋というか。一度そこを通らないと答えが出ないもんやと思ってるんです。もちろん未来のことなんてわからないんですけど、それでも絶対に届くって信じられるだけのものが出来たと思っています。そしてその気持ちがあったから、多くの人に届いたんやと思いたいですね。

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