パク・ジニョンが明らかにしたTWICE誕生秘話 “評価されること”の過酷さ、プレッシャーを乗り越えて

 しかし練習生時代の経験が彼女たちに残したのは、傷だけではないことも紛れもない事実だ。日本出身メンバーのモモ・サナ・ミナ、台湾出身メンバーのツウィが乗り越えたのは異なる文化や言語の壁だった。

 今ではネイティブレベルと称されるほど流暢な韓国語を話しファンの間では“キム・サナ”という愛称で呼ばれるサナは、練習生として韓国に渡った当初のことを「意思疎通ができず、相手の言うことが分かりませんでした」と振り返ったあと、前向きにこう続けた。「会話を通して繋がって笑いあいたかったんです。だから一生懸命、韓国語を勉強しました」。言葉が通じない環境の中で抱えていた葛藤。それは、どんなに疲れている時にもメンバーとのコミュニケーションを第一に考え、グループのムードメーカーとしての役割を果たすTWICEのサナらしさへと至っていることを知った。

 また、周囲との環境の違いに悩んでいたというチェヨンは「私は幼い頃からこの世界に入ったので、友達と共通の話題があまり多くないんです」「友達が将来の進路を考えているとき、私は自分がしていることをあまり話しませんでした。学生である友達と私では、どうしても違いが出ますから」と語った。

 しかし当時のチェヨンが感じていた孤独は、独創的な感性を持つことで知られる今の彼女の魅力へと確かに繋がっている。以前TV番組で「絵を描くのが好きだが、自分より上手い人を見て現実を知って以来進むべき道が分からなくなった」という学生の相談を受け「他人と自分を比べないことが大事です。やりたいことをやろう。周りと比べてプレッシャーを感じなくていい」という言葉を投げかけていた彼女。自分と他者の主体性を尊重するその姿勢は、当時の経験が糧となったように思えた。

「彼女たちを選んだ基準は、自然に個性を出すことが出来るかということ。話しているときだけではなく歌やダンスにも個性は表れますから、そういった個性が光る子を選びました」

 プロデューサーのパク・ジニョンが明らかにしたTWICEの誕生秘話は、メンバーの一人ひとりの個性こそがグループの特別さに繋がっていることを物語っている。「激しかったあの日、9人の練習生たちの話」と題されたEp2は、彼女たちの持つ個性がいかにして磨かれ、TWICEの魅力となっていったかを明らかにする内容だった。

 余談だが、先述したナヨンの「Santa Tell Me」にまつわるエピソードには続きがある。彼女は、昨年改めてこの曲をカバーした際にこんなことを話していた。

「ONCE(TWICEのファン)に聞かせてあげる前はこの曲と仲良くなかった。でも、こうして今回で私にとっていい記憶に変わった気がしてとても感謝しているんです」

 “評価されること”のプレッシャーを乗り越え、いま自分のもとに集まった人々に届けるようにして歌うナヨンは、あの頃とは違って心から幸せそうに見えた。その姿から微かな希望を感じたとともに、彼女たちの払ってきた犠牲の全てがこのようにしていい記憶へと変わっていけばどんなに良いだろうと思ったのだった。

【合わせて読みたい】
TWICE、異なる出発点から現在まで続く“歌って踊ること”への喜び ドキュメンタリー第1回を観て

■菅原 史稀
編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。Twitter

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