「愛は勝つ」は時代とともに意味が加わり歌い継がれていく アップフロントによるテレワーク合唱から感じたこと

アップフロントテレワーク合唱から感じたこと

 「愛は勝つ」は応援ソングとして作られたわけではない。もともとはKANが友人の恋愛相談に乗っていた時に「大丈夫、愛は勝つよ」と発言したことから着想した歌詞で、「せめて歌の中では上手くいけばいいな」という想いを込めて作詞した楽曲だ(参照:朝日新聞デジタルスポニチアネックス)。つまり多くの人を励ます目的ではなく、一人の友人に対するささやかな励ましの歌だった。そのような曲が多くの人に希望を与える応援ソングになった理由は歌詞と楽曲構成にある。

 歌詞は抽象的な表現が多い。それはKANの楽曲の中では珍しい。例えば「プロポーズ」では〈ぼくの街に公園があるよ 緑の芝生も野球場も噴水もある〉など具体的な描写が多い。「まゆみ」は女性の名前を出しているし、「よければ一緒に」では登場人物の感情や行動が丁寧に描かれている。しかし「愛が勝つ」の歌詞に出てくる〈君〉が何に悩んでいるかもわからないし、主人公の励まし方も具体的ではない。しかし一つひとつの言葉は真っ直ぐでわかりやすい。真っ直ぐな言葉で抽象的な表現をしているので、リスナーは歌詞について様々な受け取り方ができ、自分の歌として共感することができたのだ。だからこそ東日本大震災の時は多くの人を励ます力を与える歌になったし、今は新型コロナの最中で頑張って働いている人たちにエールを送る歌にもなった。

 また楽曲の構成がシンプルでわかりやすいことも愛され続ける理由の一つだ。最初から最後までリズムパターンはほとんど変わらない。キーもほぼ一定の高さを保っている。Aメロとサビというシンプルな楽曲構成で覚えやすい。シンプルだからこそメロディと歌の印象が強く残る。

 元々はKANが友人の話から構想した歌だった。それがヒットして応援ソングとなった。東日本大震災の時は復興を願う人たちの希望の歌になった。そして今は新型コロナが流行する中、最前線で働く人たちへエールを送る歌になり、多くの人に安らぎをくれる歌にもなった。時代とともに意味が加わり、リリース時以上に多くの人に愛され歌い継がれる名曲へと育っている。きっと新型コロナが収束した時は〈必ず最後に愛は勝つ〉というメッセージの力強さをより感じる明日がきっとあるはずだ。

■むらたかもめ
オトニッチというファン目線で音楽を深読みし考察する音楽雑記ブログの運営者。出身はピエール瀧と同じ静岡県。移住地はピエール中野と同じ埼玉県。‬ロックとポップスとアイドルをメインに文章を書く人。
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