『Mステ』『CDTV』『お部屋でSING!』……コロナ禍による音楽番組の将来的な可能性 各番組企画から考える
海外の例だが、レディー・ガガの呼びかけで実現したオンラインでのバーチャル・コンサート『One World:Together at Home』は、その意味で示唆に富む。コロナ禍のなかで懸命に働く医療従事者などへの支援を目的に開催され、ポール・マッカートニー、スティービー・ワンダー、ビリー・アイリッシュなど多数の有名アーティストが「ステイホーム」を自ら実践しつつ参加した。
その模様は、YouTubeなどを通じて全世界に配信されると同時にアメリカの3大ネットワークでも一部が中継された。それぞれがリモート出演で披露する歌には、背景に映る自宅の様子なども相まって、豪華なセットでのパフォーマンスなどとはまた異なるかたちでこちらに伝わってくる新鮮な感動があった。
先ほどふれた過去の映像のアーカイブ的活用にせよ、あるいはリモートによる出演やコラボにせよ、それらは実質的にテレビとネットが接近しつつあることを物語っている。となれば、こうした海外でのテレビとネットの垣根を越えた試みを参考にしつつ、日本なりの音楽番組のスタイルを模索してみるべきなのかもしれない。
ただいずれにしても忘れてはならないのは、音楽そのものが人と人を結びつける最良のメディアであるという根本の部分だろう。外出自粛を余儀なくされ、ともすれば誰もが精神的に孤立してしまいかねない状況だからこそ、そのことは改めて大切な意味を持つ。
「わたしたちには歌がある!」。これは、『うたコン』が通常放送でなく特別編になって以来ずっと掲げている言葉だ。この現在の苦境は、一方で制作者、演者、視聴者といった違いを超えて私たちが歌、そして音楽の魅力を再発見する好機でもある。おそらくこれからも新たな音楽番組のチャレンジが続いていくだろう。そのなかで、そんな再発見の瞬間が何度も訪れることを期待したい。
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。